バレンタイン小話 =====

「こんな夜中に何してんだ」
「うわ!…な、なんだ先輩ですか。脅かさないで下さいよー…」


 ボウルを抱え直して、俺は息を吐いた。

 今日はバレンタインだ。今日と言っても、先程日付が変わったばかりの深夜。バレンタイン本番は目を覚ましてからということになるだろう。
 そういうわけで、いつもお世話になっているお礼も兼ねてバレンタインのチョコレートケーキを作ることにしたのだ。夜中に作っておいて皆さんを驚かそう、そう思って。


「…バレンタイン、か」
「あれ、深鶴先輩はバレンタイン嫌いなんですか?甘いもの好きでしたよね?」
「限度があるだろ。うちの学園がどんなとこだか忘れたのか?」
「あ……」


 そうだった。絳河学園はホモやバイの多い半閉鎖空間。先輩を含む春原さんたち5人は大量のチョコレートをもらってくることだろう。俺のチョコなんて必要としてないし、むしろ迷惑にすらなるかもしれない。

 すでに溶かしてしまったチョコを見つめていると、濡れた何かが頬を這った。


「な、ななな…!?」
「甘い」
「なんで舐めたんですか!」
「何考えてるかくらい分かんだよ。それよりも」


 怒る俺に近付いて、先輩はニヤリと笑った。自然な動作で唇を奪い、部屋へと去っていく。


「明日はもっと甘いのを期待してるからな」
「誰が!」


 先輩には、チョコレートなんて用意してやるものか!

13/02/15・追記にて

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