先生って、お茶目。
先生って、かっこいい、色っぽい、かっこいい。
とんでもなくかっこいい。
〜♪
先生は本来あたしの手に届く人じゃないんだろう。
今もこんなに遠い。
手を伸ばしてみる?届かない。
心地良いメロディが胸を撫でて去って行く。
先生は振り付けのセンスもすごいけど、選曲のセンスも天才的だとおもう。
というか、意図的にあたしの好きな曲を選んでたとしたらどうしよう。
あたしは息を止めるわ。
「…………」
先生はもちろんダンスに夢中で喋らないし、あたしはあたしでラジカセの近くに座り込んでそんな先生をただじっと眺める。
嫌いじゃない、むしろ好き。
この世界はあたしと先生と間を流れる一本のうただけになる。
気持ちいい。
「…っふーー…。なぁばばあ、この振り付けさぁ、」
「………………」
「…え、嘘でしょ寝てんの?」
あたしの意識は大きめに響いた機械音で復活した。
「…………ぇ」
「あれ、目ぇ覚めた?」
……寝てた。
先生は体育座りで顔を上げたあたしの目の前でしゃがんでいた。
手にはケータイ。
「…っ、せんせ、撮ったの?」
「うん。かわいいよ、見る?」
段々と覚醒していく脳みそが、「先生に情けない姿を晒した」事だけを追いつめて言う。
「やっ、消してください!」
「こらこら暴れない。消さないよ、かわいいもん」
「セクハラ!先生が生徒にそんなことしていいわけないじゃないですか!」
自分でもそんなこと言う口に驚いた。
え?恥ずかしい半分嬉しいくせに。
先生もちょっと意表を突かれた顔をして、でもあたしを押さえつける手は緩まなかった。
「へー…、そういうこと言う?先生のダンス中に寝てるほうが悪くないか?」
「っ、だ、だってその曲、すんごいゆっくりじゃないですか、眠くなって当たり前だもん」
なんだかねじれた会話に気を回す余裕がなくなってきた。
心なしか先生との距離が縮まっているような気がする。
立ち上がったはずなのに、あたしは壁に背を預けて肩身の狭い思いをしている状態。
「あ?じゃあなんだ、先生が悪いって言うのか」
なんでそうなる。
かなぁ。
でも意地を張る私はNOとは言わない。
「えー……はい」
こういうとき素直じゃない自分を恨む。
もう遅い。
先生はあたしの視界から消えていなくなった。
…いなくなってない。
あたしに優しく触れて離れていった。
いや、まだ近い。
先生、先生いましちゃいけないことをしたんですか。
「……………なんで」
「はは、お前のほうが、なんでそんな顔すんの?」
先生は困ったような顔をした。
かっこいいな。
「先生期待しちゃうよ」
先生そんなの、先生、どうしよう。
あたしが悪かった。
あたしが悪かったから
「見ないでっ…………」
今の恥ずかしいあたしを見ないで。
先生、あたしが自惚れちゃうよ。
キスするなんてずるいずるいずるいずるい。
「先生さ、飛ばされちゃうし、………内緒ね」
そんなお茶目いらない。
そんなかっこよさいらない。
あたしの手の届かないとこにいればよかったのに。
「好き」が、止まらなくなる。
息が止まりそう。
ひどい、先生、好き。
どうしよう。
−−−
なんだ妄想か
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