バレンタインだなんだと、女は行事に敏感だ。
どんなのを作る?
誰にあげる?
どこへデートに行く?

きゃぴきゃぴしちまって。
バレンタインほどくだらない行事はないというのに。
心中で悪態を吐いて朝練終わりに下駄箱を開けると5,6個やたらキレーな小包やら袋が入っている。


「ヒュウ!モテるなぁ、靖友」

「…お前に言われたかねェ」


両腕に俺の下駄箱に入ってたのとおんなじ物を大量に抱えた新開が通り過ぎるのを静かに見送った。
少し後ろで女子に囲まれて高笑いする東堂が見えた気がしたが、見ないようにした。
持っていかないのもアレだと思って、下駄箱の中身は一応回収して教室に向かう。
後で東堂の分の山ン中に突っ込んでおこう。


キャーキャーうるさい塊は、俺が教室に入っても収まらなかったが、それよりも甘ったるい雰囲気の室内にゲロが出そうになった。
どいつもこいつもくだんねェな、そう思いながら席に着いて机の中に手を入れると、見知らぬ感触がいくつもしてそれをかき出した。
ピンクやらオレンジやらとにかくピラッピラした小包がまた何個も出てきた。


「……………………」


教室の隅で、女子の集団が俺を見てこそりこそりと会話していた。
自分で言うのもなんだが、こいつら物好きだ。
俺はいわゆるイケメンという輩とはかけ離れてるはずだ。




「おはよう」

「アァ、はよ」


隣の席に挨拶を返して、サッと異物を机の中に戻した。
今日はこいつ来るのがはえぇ…。
見られたな、この異物。

朝の時点で計14…15個。
アッレェ、今年ちょっと多いんじゃねェの…。
あー。


「やぁやぁ荒北!!さっきぶりだな!!お前もスミに置けないな!!モテモテじゃないか!!」



突然の大声にびくりと肩を揺らして振り向けば、東堂のバカヤロウが女子からの絶大なアプローチを捌きながら高笑いしていた。
なんだコイツ…妙に器用。
しかもお前に言われたかねェ。



「何しに来たんだよ。お前くるとホントうるせェから帰れよ」

「いやぁすまんね!!しかしお前に客だ、荒北」


ドヤ顔でドア付近を指差す東堂。
控えめにおじぎをする女子が1人。
めんどくせぇの連れてくんな…。
しかし普通なら東堂に靡くもんなのに、朝から15人ほどこの学校の女子は目でもイカレちまったか。
自分で言うのもなんだが。

視線だけを隣に移すと、東堂の様子に驚いているようで、仕方無しにため息をついて席を立った。


「あ…あの、迷惑とは分かってるんだけど…。あ、荒北くんにチョ、チョコ食べてもらいたくて…!」


もじもじ頬を赤らめて、おずおずキレーな袋を差し出してくる。
こういうのが新開の言う"可愛い女の子"ってやつだろうか?
控えめで守ってあげたくなる仕草…ってか?


「アー…うん、アリガト。気持ちだけでいいわ…」


俺よりも二回りも小さいその体を見下ろして、ぶっきらぼうに言う。
こういうとき上手く言えないから怖がられんのかァ…。
泣かれたら困んな…、

困るといえばもう一つ気がかりがあって、チラリと自分の席を見る。
案の定東堂は周りの女子を撒いてそこで楽しそうに話していた。
だから嫌だったんだ。
見境ねェなあのでこっぱち。


「……………っ、あの…っ!それでも、どうしても受け取ってほしいの!お返しが欲しいとか、付き合ってほしいとか、そういうつもりは、ないから…。これが私の精一杯の勇気なの…!だから、お願いします…受け取ってください!」


不機嫌に前を向くと、いまにも泣きそうな顔でその子は立ってた。
深々と頭を下げて、しっかりと差し出した袋を持つ手が震える姿を見て、素直に綺麗だと思った。
柄じゃない。
誰かの小包より、その袋より、その姿勢を、綺麗だと。

その子の大声と行動に、クラス中が静まりかえる。
俺とその子を見る目が好奇心と嫌悪に満ちていた。


「……ウン、サンキュ。その……嬉しかった」


照れ臭くも袋を受け取って、そこを離れる。
あの子は駆け寄ってきた友だち数人に抱きかかえられて笑いながら泣いていた。


勇気、……ね。
この行事に愉快になるとは、まさか思わなかった。
普段通りのざわめきに戻るクラスの中を、一直線に自分の席に戻る。


「荒北!よかったな!あの子いい子だっただろう!」


東堂は嬉々として俺を迎えたが、軽く無視した。
あぁ、いい子だったよ。


「おかえり荒北くん。モテる男は大変だねぇ」


のんきに笑うそいつを見て、勇気ってのを避けてちゃなんにも手に入んねェな、って実感する。



「…お前はねェの」

「え?」

「俺に。チョコ」

「…え、クラスのみんなに配ってるのがあるよ。はいどうぞ」

「…………」


まぁ予想範囲内だ。



「ワハハハハハ!!残念だったな荒北!!」


バシバシと俺の背中を叩く東堂に、今年一番の殺意を向けた。


「ッせんだよテメェはよォ…。っつーか俺がいなくなったとたんなァに話しかけてんだよ。何話してやがったボケナス…!!」


そいつから背を向けて、この猟奇じみた顔を見られないように東堂の胸ぐらを掴むと、サッと顔を青くさせた。


「いやっ、特にこれといった話題は…!!」

「チッ。もう帰れよ、超邪魔ァ」


また来るぞ!とキメて帰って行く東堂がホントにうざい。
またね東堂くん、とまたそいつが手を振るからでかめの舌打ちを零す。


「東堂くんおもしろい人だね」


ハァ…。もうこれ以上余所見しないでくんねーか、なんて。
深いため息をついてもこいつはぎもんをうかべるだけ。


「チョコ…」

「まだほしいの?」

「ちげェよ……」


机の上にうなだれる。
上がって下がって下がって、あと一回上がんねーかなァ。
なんでこいつは気づかねェんだろうなー。
ほんと鈍。激鈍。


「本命あげんの」

「うーん、受け取ってもらえないんじゃないかなぁ…」


苦笑いを零すそいつに、
勇気はァ?さっきの見てたんだろって諭してみた。


「だからだよ。荒北くんのあんな姿見たらフラれたも同然じゃない?」

「………ん?」

「…でも、やっぱり勇気出そうかなぁ」

「…ど、どういうこと?」

「えぇ?…ふふ、ないしょ」


唇に人差し指を当てて照れくさそうに笑うそいつが、何を言ってるかなんて。本当のところは分からなかったんだけど。
けど、俺ってまだ終わっちゃいねェんじゃねェのかって。
残り少なくなった高校生活の中でこいつがどんな表情で俺を見るのか見届けてやる。
今日はきっかけだけで充分なんだろ。




ーーー
おそろしく遅れたバレンタインねた。
しかもヒロインがでんでんでてこなくてどうしよう。







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