「…あー!もう!」

「…何を騒いでいる、ふけを」

「真ちゃん、あたしもう我慢ならんわ」

「なんなのだよ突然」

「…これを見なさい」

「……習字だな」

「そう、習字」

「習字ごときで何を叫ぶ必要がある。十分に精神統一でき、いざ書こうと意気込んだ瞬間隣で大声を出されたおかげで集中力を乱された俺の書をどうしてくれる?」

「お、……おぉ、ごめん」

「…ったく、これだから尻軽ビッチは………」

「え、え?え?え?………………………あ、そうだそうだ!真ちゃん見てよこれ!このへにゃっと曲がっちまったアタイの字を!」

「…ハッ。お前にお似合いの汚れ具合いだな」

「そういうこっちゃないのだよ!真ちゃんも感じていたはずよ。この理不尽さを…」

「…………!まっ…まさか…」

「そうよ…この見本の字、右利き用に位置してるのよ!」

「…た、確かに…。ここだけ切り取って反対側に置きたいくらいなのだよ」

「はぁー…これだから世間は…」

「俺たち左利きにとっては住みづらい世界になってしまったな…」

「まぁもう慣れっこだけどね。小学校のときからこういう理不尽は日常的に被ってきたのだから…」

「俺はノートを取るときに小指の側面が黒くなるのが気に食わないのだよ」

「ね!ほんとやだ!国語はさぁ、ノート横にして書けるけど」

「誰がこんな造りを発明したのだよ。滅びろ」

「あたしさー、小学校のときテニスクラブ通ってたけどさ、右利きの人ばっかだから練習メニューが全部右利き用なのよね!みんなのフォアはあたしのバックだし、みんなのバックはあたしのフォア!めんどくさいったらないっつーの!ほんと腐れ」

「分かるのだよその気持ち…。コーチの奴らは必ず見本を見せるときに『右利きの人は〜』と右利きであることを前提に説明する!じゃあ俺たち左利きはどうすればいいんですかあぁああ!!?なのだよ!!」

「あたしんちはキッチンがもう右利き用だし!あたしに台所立つなっつーんスか!!なんなんスか!!料理させろ!!バカ!!!」

「いちいち『あぁ、またか…』と悟るのすらめんどくさいのだよおぉおぉおおぉおお!!」

「あームカつくわー!!」





(……ヤバい…俺、真ちゃんがあんなに一気に言葉発して叫んでるの初めて見た)
(やっぱ真ちゃん話し合うなー)
(高尾並みのうるささがなければもらってやってもいいのだよ)
(…はっ!なるほど、それで左利き専用の一戸建てを建てるのね!)
(ふ…さすがふけをだ)
(……何あれ……)





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