健介、健介健介健介。私ほんとに健介が好きだ。

からかうのが好きなとことか、笑顔が可愛いとことか、ちょっと周りより身長が低いのを気にしてるとことか、挙げていったらキリないくらい健介の好きなとこがある。

でも上手く表現できないんだ。
だって健介はバスケが大事だから。


健介に触られるのとか、健介に褒められるのとか、大好き。
でもそれが伝わっちゃったら健介は困るんじゃないかなぁ。

健介といるといっつも心音が速くなるんだよ、健介の言葉1つ1つに一喜一憂してるんだよ、健介がバスケしてる姿が最高にかっこよくて大好きだよ。

いつか、伝えられる日は来るのかな。


「健介!」

HRが終わって一番に健介の机に向かった。一直線すぎたかな。こいつどんだけ、って思われたかな。でも今はそんなのどうでもいいの。

「おー、どうした拭け」

「健介っ、あのね、あの、駅前のね、私の家の最寄り駅のねっ」

「待て待て。落ち着いて喋れ。何言ってるか全然わかんねーぞ!」

そんな風に言われて、キョトンとして深呼吸をした。
内容を言うこと自体に緊張してないんだよ。健介に言うから緊張しちゃったんだよ。

「あのねー、駅前に新しいカフェができたでしょ?あそこのね、ケーキがね、すごい美味しいって友だちが言ってたの」

「あーはいはい、一緒に行ってくれってか」

「!よくわかったね!健介もしかしてエスパーだね!」

「いやお前なんか日本語変。劉みたい変」

「いつなら行ける?」

健介が私の気持ちを見抜いてくれたことが嬉しくて、ついつい顔がにやける。
にやけたまんま首を傾げて聞いてみる。健介の大事なバスケの時間を削りませんように、健介が辛くなりませんように。祈りをかけて。

「……お前今日委員会だっけ?」

「?うん」

「遅くなってもいいなら、終わった後寄ってやる」

「でっ、でも、部活終わったあとってことでしょ?疲れてるでしょ?部活休みの日とかでいいよ?」

焦った。健介が無理して私に合わせようとしてるんだと思って。

それとも、面倒な事はさっさと終わらせたほうがいいとか…

「んな事気にすんなよ。疲れてるかどうかはさておいて、お前行きたくてうずうずしてんだろーが。俺が忘れちまわないうちに行ったほうがいーだろ」

健介はぷいっと視線を逸らして言い放った。
それは、健介のせーいっぱいの、おっきな優しさで、私はもうどうしようもなくて。
申し訳ないのに嬉しくて、でも過剰に反応しないように抑えて抑えて

「ありがとう!健介部活頑張ってね!」

私もせーいっぱいの笑顔で健介を送り出した。


その日の帰り、委員会が終わった私はいつもより足取り軽く体育館に向かった。

体育館のドアからコソリと中を覗くと、まだ自主練中の健介がドリブルをしていた。


かっこいいなぁ…


乙女な考えが頭を埋め尽くすけど、私は健介のことになるとどうもそれ以外考えられないらしく、もうどうしようもないこと。

だって好きだもの。


そそくさとステージ上に上り、ストンと腰を降ろして健介のことをじっと見つめた。
健介は私に気づいてないようだった。

それくらいバスケに集中してることが、嬉しくて、少しだけ寂しい。

でも、いいの。健介のかっこいい姿が見られるから、この時間は健介が私の存在に気づかなくてもいい。
たまに小さなお願いを聞いてくれれば、隣に居させてくれれば、充分生きていけるの。


正座した足がジワジワ痺れ始めるころ、ドリブルをやめて汗を拭った健介が、ようやく私に気づいた。

既に眠気が襲っていたけど、笑顔で手を振った。

それを見た健介が血相変えて私に駆け寄ってきた。


「わっ、わりィ!練習集中してて気づかなかった…!」

健介は申し訳なさそうにするけど、それを私が咎める理由はない。

「いいんだよ。健介がバスケしてるの見るの、好きだし!」

そう言うと、健介はますますバツが悪そうな顔になって、どんどん顔が下を向いていって、…ついには、頭を抱えて座り込んでしまった。


「……健…介…?」

やだ。どうしよう。私変なこと言っちゃったのかな。

健介落ち込んでるの。ねぇ、顔上げて、私謝るから。

「……情けねぇ」

「…?」

健介は座り込んだ体制のまま、ボソリと呟いた。

「俺、今日、のこと、楽しみだったんだぜ…。……なのに、バスケやってたらそんなことも忘れてた。お前との約束破った。お前が喜ぶことしてやりたかったのに」

「………」


…健介。

健介、私、それで充分だよ。
健介が私のこと頭の隅の隅にでも、置いておいてくれたなら、私もう幸せだ。

健介はバスケが一番大事だから。
そんな健介に、私のこと考えて、私ともっと一緒にいて、私を見て、私と付き合ってよ。


……なんて、どれも言えるわけない。

私は今の位置でいい。
今の関係が心地いい。

たとえ健介も私のことを好きでいてくれるとして、付き合っても、健介のバスケに私が邪魔になる日がくる。


「健介、顔上げて。健介の気持ち伝わったから。健介私のこと考えてくれたんでしょ?もういいよ。いつか、でいいからさ、今度どっか遊びに行こう?その時おいしーお菓子奢ってくれたらいいよ。それで全部チャラだよ!」


健介笑って。
健介の笑顔のためなら悲しくても笑える。

健介が笑っててくれたら、どこにいても頑張れるから。


「拭け、俺、お前が……」

健介は私を見上げて辛そうに眉を寄せた。

でも、その次の言葉は失われた。健介は頭を振って頭を自分の膝に預けた。

「…健介ぇー、帰ろ?外もうすっごい暗いよ!死んじゃうよ!」


「……、…おー。拭け、お前また日本語変。小学校からやり直すか?」

「ひどっ!ひどい!その時は健介も道連れです!ヤッター!」

「ヤッターじゃねぇ!俺はお前とは頭の作りが違うんだよ!」


あぁ、やっと笑ってくれた。
健介の太陽みたいな笑顔が好き、健介が好き。


ありがとう。笑ってくれてありがとう。


「拭け……?なん、で泣いて……」

「…え?泣いてないよ…」


頬に触れたら、水が手に染み込んだ。
…これは、感涙だから。
健介の笑顔が眩しかったからだよ。


「ど、どうしたんだよ…やっぱ悲しかったのか?今から行くか?お、俺もう…こんなことしねェから」


泣き止んで


そんな。私が泣くと健介は笑顔を失くすの?

それなら、私は笑っていなくちゃいけないなぁ。健介のため?ううん、それはきっと私のためかもしれないけど。


「…なんでもないよ。ね、健介。卒業したら、春にオープンする市街のドーナツ屋さん、行こう?」

「………お前、…また食いもんなのな」

フッと、健介は痛みにも似た微笑みを洩らす。


私は学校生活に終わりが来たとしても、貴方と一緒に居たい。

その想いは今のできっと伝わってしまった。
別に、どんな意味にとられても構わない。都合のいいように解釈されていい。


貴方を想わせてください。

ただそれだけで、いい。







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