※「ぼくらの」パロ
※来神時代
※臨也の死亡エンド










「シズちゃんさあー」


半壊した街の中、俺に追いかけられていた臨也が突然振り返って声を出す。


「最近のロボット、君の力で壊せないわけ?」
「あ?…戦闘機も通じねぇんだろ、無理だ」
「そっか」


臨也が話題に出したロボット――一部ではジアースと呼ばれている――は、最近突如地球に現れた。

違う形のロボットと戦い、街や人々に多大な被害を与えている。
かくいう池袋もその被害にあっていて、高いビルはどれも半分ほどの大きさになるほど壊れ、崩れていた。

面倒だと思っていた学校も、いざ行けなくなると寂しいものだな、と思う。
こんな街で、臨也を追いかけるくらいしかやることが無いのはなんだか虚しかった。


「俺の大好きな人間があの鉄クズ…いや、鉄じゃないみたいだけどさ…ロボットに踏み潰されるなんてつまらなくてねぇ」
「つまるつまらないの問題じゃねぇだろ」
「さすがのシズちゃんも…あれに踏まれたら死んじゃうかな?あ、光線に当たったらでも可」


笑いながら訊いてくる臨也。だが、なんとなくその笑顔は張り付けたものだと思った。

体の力を抜き戦闘体制を解いて、改めて臨也に向かい合う。


「…死ぬだろ。500メートルのロボットだぞ」
「そっか」
「お前だって死ぬんだぞ。家族と逃げたりしねぇのかよ」


母さんは俺に逃げようと言った。
どこが安全かはわかない。だが今のところ海外では被害がないから、海外へ逃げようと。

幽はついていった。だけど俺は残った。

俺の生まれた街だ。ロシア寿司は変わらず営業しているし、セルティはバイクに乗っている。
変わらない。ロボットがいなくなったらここは元の池袋だ。俺の街であることには変わりない。

そして何より――臨也が、避難していない。


「ウチも家族は避難したよ。残っているのは俺だけだ」


それは前から聞いていたことで、驚きはしない。代わりに疑問を口にした。


「なんで逃げねぇんだ?」
「この街が好きだから。あんなロボットに、人間が負けるわけがないと信じているから。…シズちゃんだって、避難してないしね」


微笑まれたその言葉はまるで、俺がいるから避難していないようだ。
そんなことはあるはずがない。前の二つだけが理由だろう。

「でも、」と言葉を紡ぐ臨也。その目はどこか遠くを見ている。


「そっか…遠くに行くべきだったな…」
「?…逃げるのか?」
「どうだろう。君が遠くへ行くなら俺はここに残るし、行かないなら離れる」


俺がいる場所にはいたくないと、そう言った臨也に胸が痛んだ。


「俺、は…」
「?」
「お前が池袋にいるから、残ってるんだ」


お前を追いかけるために。
お前が生きていることを確かめるために、俺は残っているんだ。


思わず口から出た本音は、少し震えていた。

いきなりの俺の言葉に臨也は目を見開いて、珍しく驚いたようだ。
俺はと言うと、言った言葉に時間差で羞恥心が込み上げていていた。

本人に言うつもりは無かったのに。
臨也への恋慕は世間がこんな悲惨な状況だからこそ気付いた感情で、下手すれば一生気付かなかったかもしれない。そんな感情を、今更――


後悔に襲われたところで、臨也が口を開いた。


「…俺もだよ。君と離れたくなくて、この街にいるんだ」


え、と目を見開く。
あれだけ俺のことを嫌いだと言って、殺しにかかってきていた奴が――いや、それは俺もか。
だが予想していなかった出来事で、俺は動揺して「ぇ、いや、あ、でも」と拙い言葉しか発せられない。

そんな俺に臨也は困ったよう笑った。


「だけどそれはエゴなんだよ。君が同じ想いだとしても、酷い自己満足だ」
「あ…?」
「俺は君のそばにいちゃいけない」


今は特にね、と言う臨也。
なんで、と口に出したら、臨也はまた笑った。今日のコイツはよく笑う。


「君を守りたいから」
「じゃあ傍にいればいい」「それじゃ危険な目にあわせちゃうんだよ」
「お前だけが危険なんて嫌だ」


俺に気を使って、一人で危険な目にあうなんて許さない。どうせなら巻き込んでほしい。


「俺を一人にしないでくれ…!」


訴えるように言った言葉に、臨也は目を細める。
その口は薄く開いては、躊躇するようにまた閉じた。
いざや、と小さく名前を読んだら、臨也が真剣な顔でまた口を開いた。


「…連れては行けない」
「なんで、」
「でも覚悟は決まった」


それはなんの覚悟だと訊く前に、臨也は俺に近寄って目の前で両手を広げて微笑んだ。


「抱き締めてくれないかな、思いきり。俺も抱き締めるから」
「……?」


いきなりの頼みに首を傾げる。
しかも抱き締めろなんて、恥ずかしくてなかなか実行もできない。


まごつく俺に臨也は痺れを切らしたのか、自分から俺の背中へ腕を回し抱きついてきた。


「臨、」
「シズちゃん」


まるで催促するかのように名前を呼ばれて、おずおずとその背中に腕を回した。
思いきり、なんて言われたが、俺が思い切り抱きしめたら臨也は壊れてしまう。その恐怖のせいで、力加減がわからなくて酷く弱く抱きしめてしまったと思う。

クスリ、と臨也が笑った気配がした。


「シズちゃんは優しいなあ」
「……悪い」
「いや、これでいいよ。俺が死んじゃったら元も子も無い」


最後にぎゅうっと一度強く抱きしめてから俺を離す。
その時微笑んだ臨也の顔はとても綺麗だったが、同時になんだか儚く見えた。

なんとなく、臨也がどこか遠くへ行ってしまうような気がした。


「臨也…?」
「…もう行かなくちゃ。じゃあねシズちゃん!」


そう言って俺に手を振り、走り出す臨也。
「待て!」と声を荒げてそのあとを追いかける俺に、臨也は首だけで振り返って少し大きめな声で言葉を発した。


「正直言うとさあ!人間が死のうが生きようが、この世界がどうなろうがどうでもいいんだ!それが人間の最後なら、俺はその最後だって愛してみせる!」
「なんのことだよ!」
「でも!だから!俺は人間のためじゃなくて君のために戦うから!だからシズちゃん、君は」


曲がり角を曲がる直前、臨也はまた綺麗に微笑んだ。


「君は、生きて」


何を言っているんだ。そんな、これから死んでしまうかのような言葉。

バクバクと心臓がうるさい。
慌てて臨也の後を追って曲がり角を曲がると、そこに臨也の姿は無かった。


「…臨也…?」


どこに行ったのだろう。そう思った時、フッと自分に大きな影がかかった。
まさかと思って振り返ると、先ほどまで臨也と話していたロボットが池袋の中心で立っているのが見えた。



僕の世界の中心は君だった




やがて時が経ちロボットが出なくなって、池袋が元に戻っても、臨也は帰って来なかった。




▼あとがき
一度やりたかった「ぼくらの」パロ。
完全に一人で楽しんでた感が酷い文章になってしまった。

知らない人のための補足としましては、「ぼくらの」の「戦闘ルール」から今回の話に関連する物を引用。

一、ジアースでの戦いで負けたり、勝負がつかず48時間以上経過すると、地球が破壊され、全人類のみならず地上の全生物が滅亡する。

三、操縦者は、事前に契約した者の中から選ばれた1名がなる。操縦は一人で行い、勝手に変更することは許されない。

五、戦闘終了後、死亡したパイロットの死体は自宅に転送される。だが本人が望めば、きれいさっぱり消し去ることや、ジアース内の隙間で保管することもできる。

戦闘ルールには無いのですが、大前提として、ジアースはパイロットの生命エネルギーで動かすため、戦闘終了後パイロットは必ず死に至る。
今回は臨也がパイロットでした。

パイロットの居る場所にジアースは現れるから、シズちゃんから離れたかった臨也。
最後の最後で、人間よりもシズちゃんを守ってほしかった。