見るんじゃなかった。
静雄は枕を手にし、必死に目を閉じる。
部屋に響く時計の音が、やけに耳障りだ。時折、風で窓が揺れ、びくっと体を震わせた。
ああ、見るんじゃなかった。
昼間、新羅の家で、ホラーの邦画を見た。定番でべたなB級ホラー映画だったが、血まみれの女や、子供の霊の映像が頭から離れない。
『シズちゃん、きっと夜に思い出すよ』
馬鹿にしたような臨也の声が蘇る。
『怖くて眠れなくなるんじゃない?』
うざいうざいうざい。
結局その通りになってしまった。
きっとセルティなんかも怖がっているだろう。彼女はホラーは苦手だったはずだ。
何でホラー映画なんて見てしまったんだろう。特に邦画のホラーは怖くて堪らない。真っ黒で長い女の姿が恐すぎる。
カタン。
急にアパートの玄関から音がして、静雄はハッとした。
ギィィィ…
扉が開く音がする。静雄はギュッとシーツを掴む手に力を入れ、体を起こした。
静雄は普段、家に施錠しない。盗まれて困るものなんてないし、在宅中に忍び込まれたら、相手の方が無事ではすまないだろう。
「シズちゃん」
聞き覚えのある声。
静雄は何度も瞬きをし、暗闇に立つ男を見た。
「臨也?」
「起きてた?」
相手は笑ったようだ。
ゆっくりとベッドにいる静雄の方へと近づいて来る。
「怖がって眠れないんじゃないかと思って」
「…うるせえ」
静雄はちっと舌打ちをする。わざわざ来てくれたのか、と思ったけれど、礼なんて言う気にはならない。
「おいで」
ベッドに腰かけて、臨也は静雄を抱き寄せる。臨也の体は冷たかった。
「寝ていいよ。手を握っててあげる」
静雄の体を横たわせて、臨也はその手を握る。
「…ガキじゃねえんだぞ」
かあっと静雄の頬が赤くなった。暗闇で良かったと思う。臨也には見えない筈だ。
「シズちゃんが眠れますように」
低く笑い声を漏らし、臨也は静雄の髪を撫でる。その手は優しくて、静雄は瞼を閉じた。
臨也はたまに、こんな風に酷く優しい。ひょっとしたらただの気まぐれかも知れないけれど、静雄はこの優しさが嫌いではない。
臨也の冷たかった手が温かくなり、静雄の心も落ち着いてゆく。
あ…眠れそう…。
うとうとと微睡み始める静雄の額に、臨也の優しいキスが下りてきた。
「おやすみ、シズちゃん」

良い夢を。







***
50万HIT記念リクエストをやっていらっしゃったので「COLD SKY」の桂木ゆんさんにリクエストさせていただきました、「ホラー映画を見て一人眠れなくなった静雄と添い寝をしてあげる臨也」。

待ってくれ…トキメキが止まらない…!←

顔赤らめるシズちゃんが可愛くて…!そして臨也がかっこよくて…!
私自身がホラー映画が苦手で夜眠れなくなるタイプなのですが、臨也さんを思い出して眠れそうですむにゃむにゃ←

リクエスト消化ありがとうございました!
そして50万HITおめでとうございました!