※日々也のキャラ構造注意









「ぎゃふん!」


――そんな声が聞こえて、仕事途中だった臨也はため息をつき、仕事を中断してパソコンのウィンドウを変える。


「日々也…まだ乗れないの?」


フォルダ内にいる、白い衣装に金のマント、そして金の王冠を被った折原臨也――日々也に話しかければ、日々也は臨也のその言葉にムッとして立ち上がり、自分が滑り落ちた白馬に触れる。


「なんのこと?落ちてなんかないけど?」
「いや、ぎゃふんって…」
「………落ちてないから」


ふん、とそっぽを向く日々也。
そんな日々也に、臨也は困ったように額に手を当てた。


――王子様タイプにしたのは、間違いだったかな…。


あまりにヘタレ、しかも意地っ張りな日々也は、「馬に乗れるまで他の人には会わない」と、インストール後は一度もフォルダ外に出ていない。
しかもそのときの言い方は
「会いたくない。なんで?僕が嫌だからに決まってるじゃない。…でもあの、ほら、アレだよ。……馬の機嫌が良くなったら会ってあげてもいいよ」
というものだった。


正直臨也は、子供のような意地の張り方をする日々也に悩まされていた。

できないことがあるのなら、サイケのように無邪気な性格のほうがいい。
意地を張らずに「できない!」と言ってくれれば、こちらも手助けが出来るのに。

はあ、とため息をついて、もう何度目かわからない問いかけをした。


「もう会いに行こう?皆会いたがってる」
「何言ってるの?まだ馬の機嫌が悪いじゃない」


――いや、馬はすこぶる上機嫌に見えるんだけど…。


諦めない日々也に、せめてと提案をする。


「じゃあ誰か一人を寄越すから、一緒に練習…馬の機嫌取ったら?」
「………」


すぐに嫌だと言うかと思っていた臨也の予想とは裏腹に、日々也は押し黙ってしまった。

臨也が首を傾げると、馬の横腹を撫でながら日々也が俯いて呟く。


「…カッコ悪いと思われるじゃない」


拗ねたような声色は、一人で練習してはキリが無いことには気付いているようだ。
だが、カッコ悪い姿を他の奴らに見られたくないのだろう。

そんな姿を見ても気にするようなメンバーではないけれど、そんなことは日々也は知らない。


だから臨也は、ふむ、と顎に手を当てて考えた。


――明らかに気にしない…というか眼中に入れない奴ならいるけどねぇ…。


頼んでみるか、と臨也が別のフォルダを開く。
そして、そのフォルダにいるピンクシャツに白スーツの出で立ちの男に声をかけた。


「デリック、頼みたいことがあるんだけど」
「…なんですか」


あからさまにめんどくさそうな表情で返事をした男――デリックに、臨也は苦笑しながら頼む。


「ちょっと面倒見てほしい奴がいるんだよね」
「…男ですか、女性ですか」
「残念ながら男だよ」


臨也のその答えに、心底面倒臭い、と容赦なく舌打ちをするデリック。

だがマスターである臨也の頼みには基本的に断れないため、低く、不機嫌そうに「わかりました」と返事をする。




――嫌われてるなぁ、俺。


苦笑しながら日々也のフォルダに画面を戻せば、日々也がまた乗馬にチャレンジしていた。
まず上るのにも一苦労な日々也を見ながら、臨也はデリックを日々也のフォルダに移動させる。

ようやく馬の上に股がった日々也。
しかし、馬が動き出した瞬間に横にバランスを崩してしまった。


「…あっ」


小さく声をあげて、馬から落ちてしまった。
訪れるであろう衝撃に備えてギュッと目を瞑る。



「……?」


だが、日々也が感じたのは痛みや衝撃ではなく、服越しの手と、肌に直接触れる布の感触。


――…?
――なんだろう…


そっと目を開ければ、知らない顔がすぐ近くにあった。
しかもその相手に、所謂“お姫様だっこ”をされている状況に、日々也は驚いて目を見開いた。


――この僕にお姫様だっこ!?王子は僕なんだけど!?


文句を言ってやろう。
そう思い口を開こうとした日々也より早く、デリックが日々也を見て口を開いた。


「…よう。大丈夫か?」


その言葉、その顔に、日々也の思考が止まる。

同じ顔をしている臨也しか見たことがなかった日々也には、まっすぐに見たデリックの顔がとても真新しく――美しく、見えた。


そして彼はこう思った。「馬の機嫌が悪かったのは、彼に会うためだったのかもしれない」。


「…大丈、夫。ありがとう…」


文句を言うはずだった口は素直に感謝の言葉を吐き出す。

ドクドクと脈打つ心臓に、日々也の頬がうっすら赤く染まる。
気付けば、口元に笑みが浮かんでいた。




お姫様は王子様



見つけた僕の愛!!




▼あとがき
波紋を呼んだ素晴らしい日々臨也。
ネットでは紳士敬語キャラか、極悪支配者キャラでしたが、ウチの日々也君はこんな感じで。

ヘタレ+意地っ張りで、ツンデレさん。
…詰め合わせればいいってもんじゃないですね(´・ω・`)

日々デリというより日々→デリ。
ヘタレだから手を出せず、ツンデレで意地っ張りだから「好きなの?」と訊かれても「は、はあ?何言ってるの?あり得ないんだけど。バカなの?」と言ってしまう。あれ、進展しない。

受けっぽくなってしまいましたが、やるときはやる男、ということで。