『24日は会社のほうで忘年会でよ…行けねぇわ』


その言葉に「あ、うんわかったー」と放心状態で返したのは、今から数日前のことだった。












だいたいさあ、クリスマスって日本の文化ではないよね。キリストの誕生日だかなんだか知らないけど、無宗教国家の日本でまでやるとか、なんなの?最近じゃ恋人と一緒に過ごすもの、みたいになってるけど、一体なんの意味があるわけ?一緒にいなきゃ十字架に貼り付けられて死ぬわけ?


「…うざいわ」


悶々としていたら、心底不快そうな波江にそう言われてしまう。


「………口にはしてないじゃない……」
「空気がうざいのよ」


確かに、一日中暗い顔をしたままの俺では鬱陶しいだろう。
だが今日は仕事もはかどらないし、明るく振る舞うこともできない。


初めての。そう、初めてのクリスマスだ。
シズちゃんと過ごせると思って、楽しみにしていたのに…!


「来いって言えばよかったじゃない」
「え、俺もしかして思ってること口に出してた…?…そんなこと言ったらイラつかせるだけじゃん…」


仕事と俺、どっちが大事なんだよー。

…言った瞬間に自販機とキスで間違いなしだ。
もしくは「仕事」で一刀両断だ。耐えられない。


「シズちゃんの前では頑張って明るくしたし…!俺マジでいい彼氏だと思う…!!」
「伝わらないけどね」
「………」


黙って波江を睨む。
クリスマスに一緒にいるのがこんな冷たい女だなんて…!


ため息をついて項垂れる俺とは違い、黙々と資料のファイルを探している波江。
そんな波江を見て、「そういえばさあ」と声をかけた。


「波江さんはいいの?クリスマスに仕事なんかして…」
「問題ないわ」
「弟くんは?」


言った瞬間に波江の周りの空気が冷えた。恐らく弟君は彼女と過ごしているんだろう。
いつもならからかうけど、今日は素直に謝った。


上司も部下もクリスマスに仕事だなんて、なんて真面目な仕事場…いや、なんて悲しい仕事場。


「リア充爆発しないかな…」


いや、俺もリア充だけどね。でもクリスマスにデートするリア充は爆発すればいい。

こっちが打ちたくも無い文章打ちこんで仕事してるって言うのに、窓からチラリと下を見下ろせばイルミネーションに彩られた街と寄り添い歩く恋人たちが目に入る。
凄く無意識に、チッ!!と盛大な舌打ちを打った。


爆発しろ。内部から爆発しろ。それはもう無残に爆発しろ。


「今すぐ戦場にしてやろうか…」
「やめなさいよ馬鹿らしい」


爪をギリギリと噛んで呟いた俺に、波江が呆れたようにため息をつく。

目的のファイルが見つかったのか、次々と彼女の手の中にファイルが積まれていくのを見て、俺はパソコンに終了命令を出して声をかけた。


「そろそろ切り上げちゃっていいよ。イヴだしね」
「一人寂しくクリスマスしろとでも言うの?」
「俺と一緒にご飯でも食べる?」
「……帰るわ」


心底嫌そうな顔をしてファイルを元の場所に戻していく波江さん。そんな彼女の様子に苦笑する。

俺も少しポジティブになろう。
去年までは普通に一人クリスマスだったわけだし、去年と同じことをすればいいだけのことだ。













去年は街へ恋人達を観察しに行ったっけ…。

波江さんが帰ってしまって、さてどうするかと考える。
時計を見るとすでに夜の7時になっていた。この時間は恋人たちが幸せそうに外食をしているに違いない。観察していてもムカツクだけで、つまらないだろうな。

そうなるとどうしよう。
こんな時間では寝るには早いし、テレビも特番ばかりで俺の気を引いてくれない。

時間潰しのためにも、まずは夕飯を食べようと思い立つ。
近くのコンビニで済ませてしまおう。

思い立ったが即行動。俺はジャケットを羽織り、財布を手にして事務所を出た。





♂♀






――いやあ、コンビニって便利だね。


買い物だけでは飽きたらず雑誌を読み漁っていたお陰で、大分時間を潰すことができた。
カサカサと、弁当とお茶の入ったコンビニ袋を鳴らしながら帰路につく。

携帯をポケットから取り出して時間を確認すれば、すでに9時すぎだった。
なるほど。2時間も立ち読みをしていたら、そりゃあ店員にガン見されるわけだ。
何も言われなかったから気にはしなかったけど。




カギを開けて事務所に入る。
机に袋を置きながらソファに座って、テレビを点けた。
9時スタートの番組がいくつかあって、その中の当たり障りないグルメ番組でチャンネルを止める。

番組内で出ているのは新宿のラーメン屋。
あ〜、ここ美味いよなあ。なんて思いながら割り箸を割る。
コンビニ弁当を食べながら、今度また食べに行こうと考える。
でもテレビに出てしまったから、暫くは混雑しているだろう。


ペットボトルのキャップを外してお茶を飲めば、クリスマスイヴは俺にとって平凡な一日に成り下がった。
テレビを観ながらコンビニの弁当を食べる…情報屋というよりは、一般のサラリーマンのような平凡さだ。
こんな姿は紀田くんや信者の子達には見せられないなあ。
信用が一気に下がってしまうだろう。

苦笑しながら、食べ終わった弁当箱をゴミ箱に放り投げた。


――10時近くになって番組が終わり、テレビの電源を落とす。

…なんかお腹空いたな…。

いや、夕飯食べたばっかりだけど。
目が食べたいというか…グルメ番組には不思議な力がある。


立ち上がって風呂へ向かう。
やることがない。腹が減っている。そういうときは風呂に入ってさっさと寝るのが一番だ。













――風呂から上がったとき、思わず目を見開いてしまった。


「…えーと、なんでここにいるの?」


ソファに座ってタバコをふかしているシズちゃんにそう声をかけると、シズちゃんがチラリと俺に視線をやった。


「いたら悪いのかよ」
「まさか。忘年会は?」
「他の人達が二次会行ったから抜けてきた」


トン、と灰皿にタバコの灰を落とすシズちゃん。
時計を見れば10時半。この30分の間に来たらしい。

シズちゃんには合鍵を渡してあるし、来てくれることは嬉しいが…。


(…なんてタイミング)


なんで風呂入っているタイミングで来るんだろう。
玄関で迎え入れたら、もっと感動しただろうに。

寝間着のままでため息をついた俺に、シズちゃんが眉を寄せる。


「あ?んだよ、テメェが一人でクリスマスじゃ寂しいだろうと思って来たのによ」
「いや、ありがとう。凄い嬉しいよ」


そう言って笑顔を作ったら、シズちゃんが自分の横に置いておいたビニール袋を取り出した。


「ならいいんだよ。一応トリ買ってきたけど食うか?」


トリ、と言われた物は某大型チェーン店のフライドチキンだった。
そう言えばお腹空いてたな、と袋を受け取りながら横に座る。
ガサガサと中を漁る俺。

シズちゃんはゴミ箱を見て、苦笑していた。


「クリスマスにコンビニ弁当かよ」
「いいじゃない別に」
「今日何してたんだ?」
「仕事してー、テレビ観ながらコンビニ弁当食ってた」


そう言うと、シズちゃんが楽しそうに笑った。

普通だな、と言われて、それに苦笑する。


「…そうでもないよ」


最後に君が来てくれたからね。



特別に変わる平凡


去年とは違う。君と一秒でも過ごせたことが凄く幸せ。









「明日は一日中ヒマだから…どっか行こうぜ」
「よろこんで!」



▼あとがき
クリスマスなんか爆発すればいい←
そう思って臨也さんに一人クリスマスをさせました。ざまぁ。←

「平凡」を目指したら萌要素が皆無に…シズちゃんも突如現れたしなあ(´・ω・`)
トントン拍子申し訳ないですorz

シズちゃんがいるクリスマスが、臨也にとって平凡になっていけばいいですね。この幸せもの、爆発しろ^^←