来神高校を卒業して2年が経った。
元々クラスメイトとは(臨也と静雄のせいで)あまり関わってなかったので、今では連絡も取っていない。

臨也達も同じだろうなあ、と届いたハガキを眺めながら思った。
“同窓会のお知らせ 出席・欠席”と書かれたハガキを机に置いて、ため息をつく。
僕に届いているということは、あの二人にも届いているのかな?もしも届いているのなら、幹事はなんて勇猛果敢な人なんだ。


卒業してから臨也が新宿に行ったおかげで、最近は二人の喧嘩を見ることも無くなった。
それが嬉しくもあったり、傍観者的にはつまらなくもあったり。
周りに迷惑をかけないのはいいことだけど、あまりに退屈過ぎる。

あの二人が来ることを少し期待して、出席の文字に丸を付けた。














同窓会の会場に行ったら、「新羅、」と無駄に爽やかな声で話しかけられた。
声のかけてきた人物を見ると、高校時代から変わらない笑顔の黒服の青年。僕も笑顔を返してやる。


「やあ、やっぱり来たんだ?」
「まあね、暇だし」


芝居がかった仕草で肩をすくめる様子も変わっていない。
臨也の様子に、やはり2年じゃそんなに大きな変化はないよね、と思わず苦笑した。同窓会なんてしても懐かしくも何ともないなあ。

少し早めに来てしまったからと、店の前で臨也と話す。
気温の低くなってきたこの時期で、夜に屋外で喋るのは若干辛くもあったが、ちらほら集まっている他の同窓生たちも昔話を始めていた。

はーっと手に息を吐きかけて、周りの同窓生たちを眺める。


「静雄は来るかな?」
「来るでしょー、ああ見えて真面目だし」


臨也も静雄に会うのを内心では楽しみにしているのか、僕の問いに笑みをもらした。


集合時間が近付き、だいたいの同窓生が揃ってきたとき、ようやくあの金髪が見えた。
キョロキョロと視線を彷徨わせている静雄に、「おーい」と手を振ってこちらを向かせる。
その声で僕を見つけて、駆け寄ってくる静雄。


「新羅。久しぶりだな。……んだ、テメェもいんのかよノミ蟲」
「久々に会ったのにひっどぉーい」


睨みつける静雄にも、臨也は楽しげに笑って返すだけ。それに静雄はムッと眉を寄せた。
怒鳴りかかりそうな静雄に、慌てて「まあまあ」と宥めに入る。
こんなときだけは傍観者もやめなければいけないだろう。一般人がこんなに多くいるところなんだから!

静雄もわかっているのか、舌打ちを一つしただけで、他のクラスメイト達の後を追うようにズカズカと店の中に入って行った。













担任の挨拶も程々に、周りは同窓会が始まってすぐに酒を飲み始めた。
みんなもう20歳だ、同窓会と銘打って酒を飲んで騒ぎたかったのだろう。


「酒は適度が一番なんだけどねえ」


チビチビと酒を飲みながら、並んでいる食事に手をつける。
臨也は「そうだねぇ」なんて相槌を打ちながら、横目で静雄を見ていた。
僕も静雄に視線をやると、彼の持つグラスには酒ではなく烏龍茶が入っている。どうやら酒は苦手らしい。

ニヤリと臨也の口が嫌な笑みを浮かべる。その笑顔のまま静雄に話しかけた。


「ねぇシズちゃん。飲まないの?」
「あ?…っるせぇな」
「え〜?酒も飲めないんだ?ダッサ〜」


明らかにバカにした臨也に、ブチンと静雄の血管が切れた音がした。
ダァンッと机を叩く静雄。宙を舞い落ちるエビチリ。ああ、あれ食べてないのに…。

クラスメイトは聞こえていないのかスルーをしているのか、誰一人こちらを見ない。さすが、高校時代をこの二人と同じ空間で過ごしているだけのことはある。


「アァ!?飲めねぇわけじゃねぇよ!!」
「嘘だぁ」
「嘘じゃねぇよ!」
「じゃ飲み比べしようよ」
「上等じゃねぇか!!」


売り言葉に買い言葉。どうしてなんでもかんでも喧嘩に発展するのか僕には理解不能だ。

本当に大量の酒を注文し始めた臨也に声をかける。


「ちょっと、程々にしなよ?」
「本気でやるよ?ベロベロに酔っ払ったシズちゃんが見れるかもしんないじゃん!」


新しい弱味を掴もうと、臨也の顔は嬉々としている。さっき「そうだねえ」と言ったのに、すぐこれだ。
こうなった臨也は僕じゃ止められないし、止める気も毛頭無い。
いつも通りの傍観をすることに決めた僕は、小さくため息をついた。


「…さらに嫌われるね、ようやく街も静かになったのに」
「今でしょ」


運ばれてきた酒をグラスに注いで、静雄に差し出す臨也。
静雄は眉を寄せながらも大人しくそれを受け取った。


「じゃあ一杯目ね」












……どういうことだろう。

僕は目の前の状況に目を丸くした。


目の前で行われていた飲み比べ。
明らかに酒が苦手そうな静雄が不利かと思っていたのに、今フラフラと体を揺らしているのは臨也のほうだった。
対する静雄はけろりとしたまま酒を飲んでいる。

真っ赤で目の座っている臨也。
決して酒に弱いわけではないだろう。結構な量は飲んでいた。


「し、静雄…酔ってないの?」
「あ?全然」


強がっているわけでもない。顔も赤くないし、呂律も回っていて、完全にシラフだ。

弱いんじゃないの?と尋ねれば、静雄は眉を寄せて首を傾げた。


「味が苦いから嫌いなだけで、酔うわけじゃねぇんだよ」


そんなことを言う静雄に「甘い酒もあるよ」と言ってみようか考えていたとき、酔っ払った臨也がいきなり「ふ、ふふ…」と笑い声を上げた。


「ふふふ…はははは」
「え、臨也、笑い上戸?」
「まさか酒に強いとはね…相変わらず俺の予想を裏切るなあ」


いつもの口調だが、ふらふらと真っ赤な顔を晒していることに変わりはない。

ゆらりと立ち上がると、この酔っ払いはいきなりバッと両手を広げて叫んだ。


「これだからシズちゃんラブ!俺は平和島静雄が好きだ!愛してる!!」


臨也の突然の叫びに、その場にいる同窓生たちは目を丸くしてバッと臨也を凝視した。
流石の僕も目を丸くしてしまったが、そんなことは気にもならないのか、臨也は千鳥足で静雄に近付いて、その体に抱きついた。

ぎょっと驚く静雄を、ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめる臨也。


「もう、ホント大好き。にんげんよりすき」
「い、臨也?」


困惑し、慌てて臨也の体を引きはがす静雄。臨也はそれに抵抗していたが、静雄の力の前では歯が立たない。
静雄が臨也の両肩を掴んで向かい合うように座らせると、目の前の静雄の顔を見た臨也はへにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべた。


「シズちゃん、大好きー」


酒は思考能力や理性をゆるくしてしまうものだけど、それでいくとこの「大好き」が臨也の本音になるのだろうか。
驚天動地。全くそんな素振りは見せていなかったし、本当に嫌いだと思っていた。

この場にいる全員の視線が、静雄と臨也に注がれる。
静雄は心から困惑したように眉を寄せていて、よく聞くと「う、ぉ…ぅ」とうめき声をあげていた。

どうするんだろうなあ、と見守っていたら、静雄の顔がみるみる赤くなっていく。
それが可哀想なほどになってきて、ついにうめき声すら聞こえなくなった時、臨也が静雄の両頬に、包み込むように触れた。


「君のその人間離れした力も、体も、切れやすい頭も、馬鹿な言葉も、俺の予想を裏切る行動も、全部全部、だいすき」
「……っ」


その場にいた女子が頬を赤らめる程に真剣な愛の言葉を言われ、静雄が臨也の顔を凝視する。
臨也は少し体を倒して、静雄との顔の距離を近づけ――え、いや、いきなりそんなショッキングな映像見たくない!

友達同士のキスシーンから視界を守るべく、さっと視線を外す。
きっと直後に我に返った静雄の怒声が聞こえるんだろうな、と思いながら。


「…………」
「……………」
「………………」
「……………あれ?」


一向に物音がしない。
まさか受け入れたとかそんなことないよね。いやいやそうだったら僕、ちょっと今度の二人との付き合いを深く考えていくことになるけど。

恐る恐る二人を見たら、静雄の体に臨也がぐったりともたれかかっていた。


「……え、寝てる?」


確認のために臨也の顔を覗き込んだら、目を閉じて規則正しい寝息を立てていた。
臨也を支えている静雄の体がプルプルと震えている。


「…も、コイツ、殺してぇ…!」



炭酸に消える






「え、俺昨日何したの?」
「今度静雄にあったら一回殴られればいいよ」



▼あとがき
消えたのは臨也の記憶でした。

「高校卒業後の飲み会で静雄を酔わせようとして、自分も酔っちゃってシズちゃん好き好き言っちゃう臨也」でした!
静雄はザル設定にしました。すぐ酔うシズちゃんも素敵だけれども、それだと今回は臨也君がベロンベロンにはならないなあと思ったので。

私自身がまだ未成年なので、お酒の表現ができなかったのが悔やまれます…!
酒ってどう酔うの…。
もうちょっと臨也をアホに書いて、新羅の心のつっこみを激しくしたかったのですが、ギャグはどうやら苦手なようで思うようにいきませんでしたorz

こんな出来ですがいかがでしょうか…!
リクエストを頂いたとき凄くテンションが上がったのですが、不完全燃焼のような気がしてもう…!

リクエストありがとうございました!!