−−深夜。臨也が事務所に行っている隙に、俺は携帯を開いた。
薄暗い部屋の中で、ディスプレイの光が灯る。
アドレスを開いて、電話をかけた。
コール音を聞きながら、空いている片手でタバコに火をつけた。
すぅっとタバコを吸ったところで相手が電話に出た。
『もしもし…』
「よう。悪いな夜中に」
声を出すと、相手−−幽が息を呑んだ気配がした。
『兄貴…?』
訪ねる声に、本気で心配させていたことを実感する。
申し訳ない気持ちが溢れて、「悪いな」ともう一度言った。
「テレビ見た」
『うん。…今どこにいるの?』
「…悪い、言えねぇ」
臨也の事務所だと言ったら、間違いなく誰かが迎えに来るから。
そう、と、少し悲しげな幽の声が聞こえる。
「…それから…」
それでも、とドアに目をやる。
ドアの向こうには臨也がいる。
「−−俺、しばらく帰らねぇから」
記憶が戻っていると、あいつにバレるまでは
それまではこの現状に甘えていたかった。
▼あとがき
静雄記憶喪失(もどき)でした。
シズちゃんが好きだけど、過去のこともあって想いを隠していた臨也と、臨也が好きだけど化け物だから嫌われていると思っているシズちゃんが、
記憶喪失をきっかけに現状に甘えている状態。
臨也は自分のことを忘れていると思っていて、シズちゃんは臨也が臨也のために記憶の復活を阻止しようと優しくしていると思っている。
すれ違いぷまいです^q^←