※デリック(デリ雄)を勝手に構造注意












新宿の事務所で、臨也はいつものように情報をまとめていた。

同じ室内では、助手である波江が要領よく資料を纏めている。


その横に、白いスーツを身に纏った男が笑顔で立っている。


「波江さん、そちらは俺がやりますので、他のに取りかかっていただいて大丈夫ですよ」
「…そう。じゃあお願いするわ」


人の良い、爽やかな笑顔で波江の手にあった書類を取り、早々に取りかかりはじめる。
波江は自分の手から奪われた書類に少し沈黙を落とすが、すぐに違う書類を手にした。



書類を奪った彼――デリックは、優秀なのだが、一つだけ問題がある。


「波江さん、少し休んでくださってても大丈夫ですよ」
「結構よ。休むとアイツがうるさいから」


そうですか、と残念そうに眉を寄せるデリック。


「別に気にしなければいいのに…」


彼は波江の――女性のためにしか動かない。
所謂フェミニストというやつで、女子供には上品で優しいのだ。




――デリックはアンドロイドだ。


だがそのフェミニストな性格のせいで、男であるマスターの臨也には冷たい。

笑顔を消して、業務的な返事しかしない――常に自分に対してそんな態度しか取らないデリックだが、臨也は一度も咎めたことがなかった。


フェミニストだから、というだけでないことをわかっているのだ。
何故デリックがそんな態度をとるのか。


「波江さん。こちら終わりました。そちらを…」
「いや、波江。今日はもう帰っていい」


デリックの言葉を遮り、臨也が声をあげる。

それにデリックは少し不機嫌そうに眉を寄せたが、波江本人は短い返事をして帰り支度をはじめてしまった。
デリックが手伝い、あまり手荷物も持っていなかった波江は早々に支度を終え、「さようなら」とだけ言って帰ってしまった。




残されたデリックと臨也の間に沈黙が落ちる。


カタ、と小さく音をたてて立ち上がった臨也は、波江が出ていった扉を見つめているデリックの横へ行った。


「君は本当に珍しいねぇ」
「………」


臨也が話しかけても、デリックからの返事は無い。
だがそれはいつものことなので、臨也はかまわず喋り続ける。


「女性に優しいのはいいことだよ」
「……」
「でも、マスターである俺に冷たいのは、一体どういうことだろうね」


肩を竦めながら言う臨也に、デリックが目を伏せて、ようやく口を開いた。


「俺は、俺がなぜ生まれたかわかってますから」


言われた言葉に、臨也が目を細めた。


「平和島静雄…の、代わりですよね」


臨也のほうに視線をやり、決して謙虚なニュアンスではない敬語でそう言う。

出された名前に、臨也の口が笑みが浮かんだ。


「まあそうだね。先に作った津軽はサイケと仲良くなっちゃったし」
「誰かの代わりなんて嫌ですよ。しかも、貴方みたいな奴に偽物の想いを寄せられるなんて冗談じゃない」


感情の捌け口にするな、とデリックの目が鋭くなる。

臨也はそんなデリックに、楽しそうに笑い声をあげた。
あはははは、と室内に響く声にも、デリックは特に反応しない。


「ははは!…俺の愛を受けるのが、そんなに嫌かなあ」
「嫌ですよ」
「そう」


臨也は笑みを浮かべたままデリックにさらに近付き、その体を抱き締めた。

デリックはピクリと反応を見せるが、背中に手を回すことも、突き放すこともしない。
それに臨也がクスクスと笑う。


「やっぱり基本的にマスターには忠実だよねぇ」
「…離れて下さい」
「その敬語は、シズちゃんと差をつけるためのものかな?残念だけど、敬語なシズちゃんなんてかわいいだけだよ」


言いながら、デリックのジャケットのボタンを外していく。
デリックはそれに抵抗はしないが、不愉快だと眉を寄せた。


「…俺のほうが女役なのも、嫌ですね。男として心外だ」
「君は俺を抱けるのかな?」
「無理です」
「じゃあ我慢してね」


臨也の言い分に、デリックは舌打ちをしたくなった。


我慢?
何を、今更。

今すでに嘔吐してしまいたいほどの嫌悪感が込み上げているのに。


デリックは静雄を見たことがない。
だが、さっさと臨也と静雄が結ばれることを願っていた。自分が解放されるために。


「今どんな気分?」


楽し気に臨也に問われ、言葉だけでも抵抗しようと、少し荒い口調で答えた。


「テメェのせいで、吐き気がする」


睨み付けながら言われた臨也は、少しの間きょとんとデリックを見つめて、次第にまた笑いだす。

乱暴に押し倒され、背中を強く打ち付けてしまうデリック。
むせているデリックにまたがって、臨也は楽し気に見下ろした。


「いいねぇ今の!シズちゃんみたいだったよ!やればできるじゃない!」
「げほっ!ごほ…っ」


臨也はゆっくりとデリックに倒れ込み、その耳にそっと囁いた。




偽物の価値しかないけど




「愛してあげるよ」


▼あとがき
デリック(デリ雄)に萌えた結果がこれだよ!←

ホスト風だったのでフェミニスト希望。基本敬語で怒ると口調荒くなればいい…!


それにしても、深夜に小説書いちゃだめだな…やれやれだぜ。