※来神時代
※臨也女装注意
「…女装コンテスト?」
「そう、女装コンテスト」
俺と新羅と臨也、それと門田で昼飯を食べていたら、臨也が突如話を切り出した。
なんでも、文化祭の出し物である女装コンテストに出場するらしい。
昼飯を食べている屋上には他に人がいないせいか、臨也は恥じて声を抑える、ということもせずに楽し気に笑って話す。
話を聞いて、臨也が女装した姿を想像し、思わず一言。
「……きめぇ」
「酷いなあ、女子に頼まれたんだよ?」
俺の言葉に、困った困った、と肩を竦め首を横に降る臨也だが、その様子はまったく困っていないようだ。
わりとノリノリじゃねーか、と思いながら、弁当の米を口に運んだ。
臨也もパンを食べて、しっかりと飲み込んでからまた口を開く。
「本当は新羅の予定だったらしいけど」
「あー、たしかに頼まれたよ。でも『僕は首があるから無理かなあ』って言ったら帰ってった」
話を振られた新羅は、頼まれたときのことを思い出すような仕草をしながらそう言った。
付き合いの長い俺達なら「可愛い服なら、セルティが着たほうが似合うよ!」という意味なのだとわかるが、知らない――話かけた女子は大層気味悪がったことだろう。
また変態説が増えたな、と内心で思っていたら、門田が口を開いた。
「付き添い役は?誰がやるんだ?」
「付き添い?」
門田の質問に首を傾げると、新羅が説明を入れてくれた。
「一人で壇上にあがるのは可哀想だから、だれか男子を彼氏役として付けるんだよ」
「…へえ」
たしかに、女装姿で一人で壇上にいるのは辛いだろう。
だが臨也の彼氏役なんて可哀想に、と若干付き添い役の奴に同情する。
「それだよドタチン。俺はそこが言いたかったの」
実に楽し気な顔で門田に笑いかける臨也。
付き添い役がなんなのだろう、と思っていたら、臨也の指がビシッと俺を指差した。
「シズちゃんに頼もうと思って」
「…あ?」
いきなりの指名に、思わず眉を寄せた。
「嫌に決まってんだろ」と即座に拒否すれば、臨也が不満そうに「えー!?」と声を上げる。
「なんで!?」
「誰がテメェの彼氏役なんぞやるか!!」
「いいじゃん、俺女装するんだよ?それと比べればマシじゃない!」
大して気にもしていないくせに、と内心で思うが、新羅も一緒になって俺を説得してきた。
顔に「面白そう」と書いてある。チクショウ。
「付き添い役は一緒に壇上を歩くだけだよ?静雄は毎年文化祭出てないんだし、参加してみたら?」
「でも…っ参加して無かったのは臨也が毎年…!」
「だからー俺と出ようよー」
粘ってくる二人に、ぐ、と口ごもってしまった。
箸を軽く握りしめて考えていると、門田にまで「出てみろよ」と言われてしまった。
…まあ、女装するわけじゃねぇし…。
そう考えて、諦めてため息をついた。
――今年の文化祭は喧嘩もなく進み、幸か不幸か、順調に女装コンテストを迎えた。
「…はあ…」
控室代わりに使っている、ステージ横にある体育倉庫の中で、本日何回目になるかもわからないため息をついていたら、隣にいる臨也が不満そうに唇を尖らせた。
「ちょっとー、こんなに美人が横にいるのにため息つくってどういうこと?」
「…美人って…お前な…」
言われて、改めて臨也の姿を見る。
体格を隠すためのジャケットの下は、女物のシャツを着ている。
下は短いプリーツスカートで、タイツにブーツ。髪はカツラで黒の長髪だ。
元々細いし、女子が頑張って化粧をしたおかげで、パッと見は完璧に女だ。
しかも認めたくないが美人の部類だろう。
俺の視線に、臨也は「困っちゃうよねー」と肩を竦めた。
「俺ってば眉目秀麗だから、女装しても似合っちゃって似合っちゃって」
「うぜぇ」
自分で言うんじゃねぇよ、と言いつつも、他の参加者に比べて、良い意味で浮いているのも事実だ。
臨也と話している間に、既に女装コンテストは始まっていて、1年の方から壇上に上がっていた。
前のクラスが壇上から降りたら次のクラスが上がるのだが、皆動きがたどたどしい。
付き添い役の男子まで緊張していて、あまり意味がないな、と思った。
次に俺達の番、となったとき、臨也がまた俺に話しかけてきた。
「シズちゃんも私服にすればよかったのに」
「うるせぇ、いいんだよ制服で」
臨也のために私服を持ってくるのが面倒で、俺の今の恰好は普段通りの制服だ。
合わせたほうがよかったかもしれないが、俺の言葉に臨也が満足そうに目を細める。
「…そうだね、制服でいいか」
「あ?何…」
「ほら行くよー」
臨也の様子になんなんだと思っていたら、突然腕を引かれ歩き出す。どうやら俺達の番のようだ。
臨也の女装のクオリティの高さと、仲の悪い俺達が二人で登場したからだろう、壇上に出た俺達に、生徒からは驚きの歓声が上がった。
何もせずただ歩く俺と違い、臨也は俺の腕に腕を絡ませ、生徒に手を振っていた。
早く終わらせたい。
さっさと壇上から降りてしまおうと、早々に歩く俺の手を、臨也が引っ張った。
「何しやが…」
振り返り、臨也のほうに顔を向ける。
その瞬間に、頬にキスをされた。
「!?」
驚く俺に、臨也がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
突然の行動に、何故か女子から黄色い悲鳴が上がっていた。
こんな大勢の前で、と怒りと羞恥で顔が熱くなる。
俺の顔を見た臨也が、笑顔を浮かべたまま俺の腕を引き、壇上から降りた。
壇上から降りた後、他の参加者が固まっている場所へは行かず、誰もいない校舎内の空き教室へ連れてこられた。
呆然としていた俺も、ようやく声をあげた。
「テ、メェ!あんな、いきなり」
「だってシズちゃんは俺の彼氏役なんでしょー?」
ずいっと詰め寄られ、背後にあった扉に背中がぶつかる。
近付いてくる臨也の顔に、条件反射でギュッと目を瞑る。
唇に臨也のそれが当てられる感触に、自分の顔がまた熱くなった。
ズボン越しに、臨也の足が擦れる感触が伝わってくる。
そうだ、今臨也は女装してるんだった。
それなのに俺のほうが女のようで、どうしようもない羞恥が込み上げてくる。
何度も角度を変えられ、舌を入れられる。
押し退けようと臨也の肩を掴んだ手は、まるですがり付いているようだ。
暫くして、ようやく唇を離される。
はあっと息を吐き出して、臨也を睨む。
「…何すんだよ」
「全校生徒の前で口にしなかったことを感謝してほしいね」
顔真っ赤だよ、と指摘され、慌てて腕で顔を隠す。
くそ、真っ赤なのはお前のせいなのに。
「これじゃあどっちが女っぽいかわかんないねぇ」
そう言って臨也は口に笑みを浮かべた。
それはまるで女のような、
そんなの、と開いた口は、続きを発することができなかった。
▼あとがき
女装攻めっていいと思うんだー!←
シズちゃんが私服なんて着たら女子が惚れる。ので、あえて制服で。
私の学校の女装コンテストでは、彼氏役の男子と女装男子がガチちゅーをしていました。ふいた。