まあ、こいつが変なこと考えるのはいつものことだ。
それがこいつのうざいところだ。


…だが、なんだこれは。








「シズちゃーん、見て見てー!」


池袋にあいつの匂いが充満していて、「いるのかよ殺す殺す殺すめらっと殺す」と呟いていた時、その苛立ちの原因が後ろから声をかけていた。

「ノミ虫!池袋には来るなと何度…も…?」


怒りに任せて振り返り、目に入った物に思わず固まってしまった。

固まった俺を見て、ふふんと得意げに笑う臨也。

「何?あまりの可愛らしさに絶句? やだぁ〜!そんなに見つめないでくださいよぅ!キャッ☆」


臨也がぶりっこポーズをとったことへは触れず、一点を見つめて眉を寄せる。


「……ネコの…耳…?」


そう、ネコ耳だ。

本来可愛らしいネコに付いているはずの、本来の用途でなくとも可愛らしい女の子に付いている場合の多い、あれだ。
あれが何故か、よりにもよって臨也なんぞの頭に付いていた

現状が把握できないせいでいつもの怪力も出せないでいる俺をいいことに、臨也はペラペラと喋り始めた。


「世間じゃシズイザブームなんだよ?勝手な妄想の内容とは言え、受けである俺がネコ耳付けて来たらさぁ

シズちゃんは俺にムラムラするべきだよねぇ」



「いや、それはねーわ。死んでも」
「やーん、ひどーい☆」
「死ねよもう…」


ケラケラ笑いながらネコ耳を外す臨也。元々そこまで本気だったわけではないらしい。


「あーあ、本当にシズちゃんは思い通りにいかないなぁ。
予定なら、このままめくるめく18禁突入だった筈なのに」


…本気だったわけでは、ない…んだよな…?
いや、本気だったとしても要望には応えかねるが。


もう嫌だ。今日のこいつ気持ち悪ぃ。

何か投げつけてやろうとして、重い物を探す。
その、俺の視線がそれた瞬間に、臨也の手が俺の頭へと伸びた。


「シズちゃんが襲ってくれないなら、逆転してみようか」


そう言って、


俺の頭に ネコ耳をつけた。



「…あああああ!?何の真似だ!」

「わあ!シズちゃん似合う似合ーう!」

パチパチと軽く手を 叩きながら笑う臨也。

似合うだと?似合ってたまるか気持ち悪ィ!
成人した男がネコ耳なんて、ありえな…あああああ、コイツさっきまで付けてたんだった気持ち悪ィ。


ネコ耳を取るのが先か、臨也を殺すのが先か−−悩む間も無く、怒りに任せて臨也に殴りかかった。

だが、俺の拳を軽く避ける臨也。さすがに何年も俺を相手にしていれば、身のこなしも軽くなるだろう。


「避けんじゃねーよ!!」
「やだなぁ。よけなかったら死んじゃうじゃない」
「死ねばいいだろうが!」


怒鳴る俺を無視して携帯を取り出す臨也に、慌てて携帯を潰しにかかる。

こんな姿、写真に撮られてたまるか!!
コイツのことだ、撮った写真をあらゆるところにバラまくに違いない。









「おー、静雄。随分面白いもん付けてんなー」


そんな言葉が、聞き慣れた声で聞こえてきた。

え、と思いながら恐る恐る振り返ると、そこには尊敬する上司であるトムさんの姿が。


「……〜〜っ!!」


よりにもよって一番尊敬している人に見られてしまった。
羞恥で熱くなる顔に気づいて、赤くなっていることに更に恥ずかしくなった。


「あ…ぅ…いや、これは、臨也が」
「見りゃあ分かるって。心配すんな」


二カッと笑ってそう言ってくれたトムさんにホッとする。
ホッとして冷静になったとき、気づいた。


パシャシャシャシャッ!


とめどなく聞こえてくるシャッター音。
音のするほうを見ると、臨也が真顔で連写をしていた。


「テメェ何してやがる!」
「何って何さー!シズちゃんが赤面なんかするからでしょー!?」
「はあああああ!?」


訳がわからないでいると、臨也が逃げるように走り出した。

「あっ!テメェまちやがれ!!」


追いかけるが、今日の臨也はなんだか異様に速い。
追い付けずに立ち止まった俺に、トムさんが苦笑混じりで近づいてきた。


「今日はもうやめとけ」
「でも…っ写真!が!」
「心配ねーべ。バラまかねぇだろうから」

妙に自信満々に言うトムさんに首を傾げる。
何故と思っていたら、トムさんが「それよりよ」と俺の頭を指さした。


「いつまで付けてんだ?それ」
「…ああっ!!」


タチ?いいえネコですとも!
(俺が受けようと思ってたのに…!あんなに可愛いなんて反則だ…っ!)



▼あとがき
ということで、初の首小説です!
実は同人漫画で使ったネタの使い回しだったり…ゲフンゲフン

シズちゃんのネコ耳画像は臨也が厳重に保管しました^^