最近シズちゃんが構ってくれない。
ここ数日電話をしても、「仕事中」や「眠い」だけ言って切られてしまう。
わざわざ池袋に行っても自販機を投げられて終わりだ。
俺、シズちゃんの恋人だよね…?
悶々としながらパソコンを弄る。
甘楽【なんかあ、最近恋人が冷たいんですよう(´;ω;`)】
田中太郎【ええ!?甘楽さん恋人いるんですか!】
甘楽【田中太郎さんひっどーい!!私だって恋する乙女なんですからねー!ぷんぷん】
田中太郎【気持ち悪いです】
セットン【倦怠期ですか?】
甘楽【田中太郎さん酷いwww】
甘楽【倦怠期と言うか…最初から私には冷たいんですけどorz】
(他の人には、優しいのに)
ため息をつきながらそう考える。
上司の田中さんには笑顔を向けるのに、俺に笑顔を向けたことなんて無い。
…笑顔が見たいよね恋人としては。
甘楽【んー…ちょっと会いに行ってみますね☆てことで、退室しま〜す(`▽´)】
――甘楽さんが退室しました――
パソコンの電源を落として立ち上がる。
独りで考えても仕方がない。まずは会いに行ってみないと。
出かけようとした俺に、鋭く波江が声をかけてきた。
「ちょっと、仕事は?」
「手につかない」
「はあ?…私、帰っていいかしら」
「好きにしなよ。明日大量の仕事が待ってるけどね」
自分のことを棚に上げて言ったら、波江のため息が聞こえた。
それに少し笑いながらも事務所を出た。
――池袋についてすぐに、シズちゃんを探すために辺りを見渡しながら歩き出す。
賑やかな街とはいえ、普通より頭一つ分高い金髪はすぐに見つかった。
田中さんの数歩後ろを歩いているから、多分仕事中だろう。
(路地裏で抱き締めて充電するくらいなら許されるかな)
多くは望まずにそれだけ考えて、駆け足でシズちゃんに近付いた。
「シズちゃん!」
「…アァ?テメェ何しに来やがった!」
仮にも恋人である俺が話しかけたのに、シズちゃんは眉間に皺を寄せながら振り返って、ドスの効いた声を出してきた。
周りは俺たちが揃ったことで避難体制をとり始めていて、誰も俺たちが恋人だとは予想すらしていない。
そのことにやっぱり少しショックを受けて、浮かべていた笑顔が苦笑になってしまったのが自分でもわかった。
「いや、ちょっと付き合ってもらえないかなって」
「仕事中だ。テメェに構ってる暇はねえんだよ」
「時間は取らないよ?」
ただギュッと抱きしめるだけだ。
だがシズちゃんは「誰が行くか」と頑なに拒否をしてくる。
さすがにここまでくると俺も少しイライラしてきた。
――少しくらい甘やかしてくれてもいいんじゃないの?
「静雄ー行くぞー?」
「あ、すんません。すぐ行きます」
田中さんの呼び掛けに、返事をして歩き出そうとしたシズちゃんに、ついに我慢の限界が来た。
「なんだよもう!そんなに仕事が大事なの!?シズちゃんなんか知らない!大っ嫌い!!」
感情が爆発したそのままの勢いで叫んで、背を向け走ってその場から立ち去った。
後ろから「おいっ!?」とシズちゃんの声がしたけど、知らんぷりをした。
なんだよ、俺の誘いも電話も聞く耳持たないくせに、田中さんの言うことは聞くわけ?
寂しくないとでも思ってるわけ?
こんなん恋人でいる意味ないじゃん!!
ムカムカしたまま山手線に乗り込み、新宿に向かう。
空いていた席にも座らずに、イライラを抑えながらつり革に掴まる。
酷く不機嫌な顔なのか、チラチラとこちらに向けられる視線に、盛大に舌打ちをかましてやった。
事務所に帰ると、俺の表情を見た波江が微かに眉を上げて驚いた顔を見せた。
「あら、どうしたの?」
「関係無いだろ。それよりコーヒー淹れて。淹れたら帰って」
八つ当たり気味な言葉にも反論をせずにすぐコーヒーを淹れてくれる波江。
カチャリと音を立てて机に置かれるコーヒー。波江はテキパキと帰り支度をして出ていった。
ソファにどっかりと座って背もたれに体重をかける。
漂ってくるコーヒーの香りに、少しだけ怒りが鎮まってきた。
「…シズちゃんのバカ」
ポツリと呟いてそのまま横になる。
少し目頭が熱くなるのを堪えて、「もう知らない」と顔を伏せた。
――…ーン―…ポーン ―ンポーン…ピンポーン
遠くから何度も何度もインターホンが聞こえて、沈んでいた意識が浮上する。
目を開けると部屋の中は暗く、街の光が窓ガラス越しに入り込んでいた。
あのまま眠ってしまったらしい。
ソファの上で上半身を倒した状態で寝たせいで、体の節々が痛い。
だが寝たおかげでストレスは軽減されていて、寝る前の怒りは無くなっていた。
(…でも暫く会いたくないなあ)
付き合ってから初めてそんなことを考える。
考えている間もインターホンは鳴り続けていて、しつこいな、と思いながら立ち上がった。
エントランスからのインターホンだから、客人はずっと動かずに鳴らしているんだろう。
他の人達には怪訝な目で見られるだろうな、と思いながらカメラをつけて相手の姿を確認する。
「…え」
カメラに映ったのはたった今会いたくないと言った人物で、夜だというのにサングラスをかけたままでインターホンを押し続けている。
なんというタイミングだ。
シズちゃんから来ること自体珍しいのに、「嫌い」と言い放った今日来るのか。
そもそも、シズちゃんは殴り込むときしか来ない。
じゃあ殴り込みに来たのかな?それはかなり理不尽だ。
わざわざ殴られるために開ける馬鹿がどこにいるんだ。
そう思ったが、よく考えれば彼がインターホンを鳴らすのも珍しい。
いつもは鳴らさずに蹴破ろうとするし、蹴破ることなんて容易いのに。
それでも大人しくインターホンを押し続けている、のは…
「……」
無言のままエントランスのロックを外す。
扉が開いたことにシズちゃんは驚いたように一瞬動きを止めたが、すぐに中に入ってきた。
暫く待っていると玄関のほうからインターホンが聞こえた。
エントランスを開けたくせに今更躊躇するが、覚悟を決めて玄関の扉を開けた。
「…なんの用?」
自分が思っていたよりも不機嫌な声色。
俺を見たシズちゃんが眉を寄せたから、多分顔も不機嫌なそれに違いない。
――やっぱまだ会わないほうが良かったなあ。
シズちゃんの顔を見たらまたムカムカが復活してしまった。
シズちゃんが嫌いになったわけじゃないが、なんというか素直にはなれない。
シズちゃんを部屋に入れることもせず、二人して玄関に立ったまま。
床の高さの関係で俺がシズちゃんを見下ろしていた。
シズちゃんは少し俯いて、気まずそうに視線をさ迷わせている。
「…い、いたんだな。返事が無いから、いないのかと」
「寝てたんだよ」
「そ…っか…」
返答すらも不機嫌な声になっていて、シズちゃんが更に気まずそうに目を伏せた。
シズちゃんが黙ってしまい、この場に沈黙が落ちる。
自らが作り出した沈黙なのに、シズちゃんは余計に気まずそうだ。
話すことも無いし、不機嫌な自分に嫌気もさしてきて、はあ、と小さくため息をついた。
そのため息に反応したのか、ビクリとシズちゃんの肩が揺れた。
掌を強く握りしめていて、殴られる?と身構えるが拳は来ない。
何か様子がおかしいと、髪がかかって見えない顔を横から覗き込んだら、サングラスの瞳にはうっすら涙が溜まっていた。
「ちょ、シズちゃん?」
一体何がどうしたんだ、とサングラスを取って、屈んでから親指で涙をすくってやる。
顔を上げさせたら、涙のせいかふるふると震えていたシズちゃんが、突然俺に抱きついてきた。
突然のことでバランスを崩しそうになるが、少しよろけただけで倒れるのは免れた。
肩に手を置いて「どうしたの?」と尋ねようとしたら、首に回されたシズちゃんに腕に力が入った。
「…やっぱ俺のこと、嫌いに…なったか…?」
「え?」
小さく言われた言葉に、聞こえたにも関わらず聞き返してしまう。
聞き返した俺に、顔を上げて俺を見るシズちゃん。折角拭った涙はまた溜まっていた。
「やだ、俺、お前に嫌われたくねぇ…!」
涙目でそんなことを言われてぐらつかない男がいるだろうか。否、いない。
力一杯抱き締めかえして、今は俺のほうが位置が高いのをいいことに「よしよし」と頭を撫でた。
安心したのかシズちゃんの体から力が抜け、俺の肩に首を置いてくる。ふさふさの髪が首筋に当たって少しくすぐったかった。
「俺がシズちゃんを嫌うわけないじゃない」
「…大嫌いって言ったろ」
「シズちゃんが構ってくれないから拗ねたの」
もっと常に素直でいてよ、
耳元で囁いたら、シズちゃんがくすぐったそうに身をよじる。
少し体を離して、俺の顔を見つめてきた。躊躇するように視線をさ迷わせる。
やがてその口が小さく開いた。
「…好きだ。だ、から…その、嫌いなんて、言うなよ」
照れを含んだ言葉に、俺まで顔が熱くなってしまった。
赤い顔を隠すために口に手を当てて、何度も頷く。
「う、うん」
「…あと」
真っ赤な顔で再度見つめられたかと思ったら、口を隠していた手を外される。
じっと見てくる目は、熱を帯びていて。
「………キス、してぇ」
今までシズちゃんから言ってきたことは無かった言葉。
それに驚いて、でも言った直後に可哀想なくらい真っ赤になった彼に笑った。
「随分素直だね?」
「…素直なほうが好きなんだろ」
「いいよわかった。今までのことは水に流してあげる」
電話切ったこととか、田中さん優先したこととか。
気まずそうに視線を逸らしたシズちゃんの頬に手を添えて、無理矢理視線を合わせた。
「愛してる」
「…俺、も…」
返ってきた返事が嬉しくて、笑みを浮かべてから彼の唇を塞いだ。
――甘楽さんが入室しました――
甘楽【倦怠期終了っ!ハッピーガール甘楽ちゃんでーす!(`▽´)】
田中太郎【ばんわー】
セットン【ばんわー】
セットン【仲直りしたんですか??】
甘楽【はい、もう!イチャイチャのラブラブのベタベタですよ〜!!】
田中太郎【はは…よ、よかったですね…。リア充爆発しろ(笑)】
甘楽【やーん、ひっどーいwww】
甘楽【あ、そうそう知ってます?】
甘楽【リア充と言えばこの間、俳優の羽島幽平が―――
たまには素直に
▼あとがき
かなこさんからのリクエスト、「シズちゃんが全然かまってくれなくて拗ねた臨也に驚異のシズデレをみせるシズちゃん」でした。
シズデレってなーにー?(低燃費系)
シズデレ頑張ったらキャラが迷子になってしまいました…。
珍しく甘いですね。私が砂を吐きました←
こんなものでよければどうぞっ!
リクエストありがとうございました!
※かなこさんのみお持ち帰り可。