※臨也stk注意











入学当初から気になっていた。


初日に思わず見つめていたらシズちゃんもこっちに気付いてくれて、凄く嬉しかったのを覚えている。
俺上から見てたのに見返してくれるなんて、今考えるともう運命じゃない?

初めて彼の怪力を見たとき、退屈だった俺の暮らしに陽が差したんだよ。


強くて とても綺麗だ。


彼をもっと知りたくて、情報を集めまくった。帰りに後をつけて行ったから、家はすぐにわかったよ。

誕生日や家族構成、好きなものや嫌いなもの、小学校や中学校の人間関係。

シズちゃんの情報が手に入るたびに喜んでいる自分がいた。高校を卒業して、会えない日が続いて、耐えられない俺は外からシズちゃんの部屋の窓を眺めはじめた。
それこそ、飽きもしないで夜中までずっと。

シズちゃんの姿を確認できるのが嬉しくて、毎晩毎晩眺めていたら、いつの間にか眺めるのが日課になっていた。


仕事で帰りが遅いときは少しだけ心配になった。

今どこで何をしているんだろう、全て把握していたいのに。



ある日シズちゃんは、上司のトムさんと一緒に帰ってきた。
笑顔で会話を交わす二人に、嫉妬と驚きが胸に広がった。

部屋にトムさんを招き入れたのを見て辛くなり、近くのコンビニで便箋を買って手紙を書いた。


ねえなんで他の人を家に入れるの。
なんで他の人に笑顔を向けるの。











今日もシズちゃんの家のポストに手紙を入れようとしたとき、中に手紙が入っているのに気付いた。

手に取るとそれはシズちゃんの両親からの手紙で、内容が気になった俺は迷うことなく封を開けて中身を読んだ。
書きつづられているシズちゃんへの気遣いの文や用件。

シズちゃんのことを更に知れたと思うと嬉しくて仕方なかったし、知れば知る程シズちゃんに夢中になった。



ああそうだ、シズちゃんに電話をかけてみよう。

シズちゃんに夢中になって、シズちゃんの声が聞きたくなった。


携帯を取り出し、シズちゃんに電話をかける。俺だとバレると出てくれないだろうから、非通知設定にして。
何回目かのコール音の後に、『はい』とシズちゃんの声が聞こえた。


『誰だ?』


シズちゃんと電話をしている。
その事実だけでも嬉しくなれた。

だがいざ喋ろうと思うと、話題は無いから言葉が出ない。
何より、俺がかけたとわかった瞬間に切られそうだ。
通話を長く続けるために俺は無言を貫いた。


次第に荒れていくシズちゃんの口調。


『誰だよ!!』


目を閉じて声だけに集中する。怒声ですら愛おしい。
シズちゃん以外の音を一切耳に入れないようにしていたのに、しばらくしたらシズちゃんは電話を切ってしまった。

え、もっと声を聞かせてよ。

もう一度電話をかけるが、今度はコール音はすぐに切れてしまった。


「切るなんて酷いなあ」


呟いて、何度も何度も電話をかける。

明け方までずっとかけ続けたが、シズちゃんは電話に出てくれなかった。


声が聞きたいだけなのになあ。









寂しい寂しい寂しい。

シズちゃんの声が聞けなくて、窓のシルエットだけでは物足りなくなった。

もう一度電話をかけるが、出てくれない。
もう何回目だろう、そう思って発信回数を見たら、シズちゃんだけで300回はあった。

毎日何十回もかけてるのに、なんで出てくれないんだろう?


寂しいなあ。

シズちゃんが仕事に言っている間にシズちゃんの家の前に来た。あまりに寂しいから、思わず作った合鍵を手にして。

手の中で鈍く光るそれに笑みが零れる。


ふふ、俺の愛の結晶かなぁ。


鍵穴に差し込んで回すと、ガチャリと音を立てて鍵が開いた。

初めて入るシズちゃんの部屋。
シズちゃんの臭いで満ちているようで、中に入っただけで俺の心も満たされた。
少し散らかっていたから軽く掃除をして、満足した俺はシズちゃんの部屋を後にした。









シズちゃんの部屋に入って掃除をするのが日課になってきたある日。

俺はいつものように鍵を開けて中に入った。
だが一歩踏み出したとき、体を大量の影が包んだ。


身動きを封じられ、何事かと思っていたら、室内からセルティが顔を出す。

それから電話を取り出して、何やら操作をしていたが、驚いているのか彼女の動きはぎこちなかった。



ギィ、と背後のドアが開く。
体が動かせないなか、なんとか首だけで振りかえったら、そこには酷く驚いた表情の想い人。

その顔を見て、一気に頭が冷えた気がした。長い夢から覚めたような、そんな感覚。



ああそうだ。

後をつけるのも
外から眺めるのも
無言電話も
大量の手紙も
手紙を読むことも
こうして部屋に入ることだって

――してはいけないことだった。


長年想い続けたせいで麻痺していた感覚が正常に戻る。

シズちゃんは数々の被害をセルティに相談していたのだろう。
ああ怖がらせてしまっていた。


シズちゃんが、震える唇を開いて声を発する。
聞きたかったはずの声が、今はとてもつらい。


「…て、めぇだったのかよ…!今までのストーカー行為、全部…!!俺が怖がってんの見て、楽しんでたのかよ!!」


バキッと、セルティの影に覆われている腹を蹴られる。

骨が折れたであろう痛みに、小さい悲鳴を上げてしまう。


気を失いそうになったが、シズちゃんに訂正するために何とか意識を繋ぎ止めた。


「ごめ、シズちゃ、ごめん…!」



ストーカーと呼ばないで





ねえ、信じてよ。本当に俺は





君が好きなだけでした。




▼あとがき
「ストーカーと呼ばないで」パロ。
純愛かと思いきや無意識stkな臨也さん。

この歌はリアルに怖いと思う←