臭う。先程からどこからか臭う。

またあのノミ蟲が来ているのだろうが、今回はいつもの臭いと、違う臭いを一緒に感じた。
誰かと一緒だということだ。そしてその“誰か”が、どのような人物かは、甘ったるい臭いで大体予想ができる。


「あっれー?シズちゃんじゃーん」


語尾に「ww」でも付きそうな口調で話しかけられ、舌打ちをして声のほうを向いた。
そこには憎き天敵――と、その腕に腕を絡めている女の姿があった。

女は俺の目から見ても美人でスタイルもいい。化粧が濃いのは俺の趣味ではないが、臨也と一緒にいるとまさに美男美女カップルだ。


「…何の用だよ」
「あれ?今日は殴ってこないんだー」


恐らくわざとだろう。臨也は女の腰に手を回してさらに体を密着させた。
それに眉を寄せるが、殴りかかるようなことはしない。


「女が一緒なんだろ。さすがにそこまで野暮じゃねぇ」
「あは。女の子に気遣う神経があったんだねぇ!じゃあ今度から池袋来るときは女の子連れて来ようかなぁ」
「来んなっつってんだろ、うぜぇ」


楽し気な臨也に、吐き捨てるようにそう言って背を向ける。そのまま立ち去ろうと思ったが、「あ」と声を出してもう一度振り返った。
サングラスを外して、フッと女に微笑みかけた。女の頬に赤みが射す。


「アンタ、男の趣味悪ィなあ」

















「…シズちゃん、昼間あれどういうつもり?」
「アァ?」


諸事後でダルい体をベッドに横たえていたら、水を持ってベッドに座った臨也が突然聞いてきた。
その質問に、昼間のことを思い出して、くす、と笑って答える。


「思ったこと言っただけだぜ?」
「あんな風に笑っちゃってさあ?あの子、折角可愛かったのにシズちゃんのことばっか聞いてきてうざくなったんだけど」


臨也にうざいと言われるなんて相当だ、と笑みを深くする。


まあでもこれで、あの女は臨也に近付かないだろう。今度来るとしたら、自分のところか。

どう対象しようかな、と思っていたら、臨也が不満そうな顔でこっちを見てきた。


「…随分とご機嫌だね」
「んなことねぇよ」


口ではそう言うが、自分の頬が緩んでいることは自覚していた。


ああそうだ、「誰だっけ?」って言ってやろう。杏里にも言ったけど、それとはまったく違うニュアンスで言ってやる。


「…嘘ばっかり。そんなに俺から女の子奪って楽しい?」
「テメェから横取りした事実が愉快で仕方ねぇ」
「ひっどいなぁ…」


小さく肩をすくめて俺の横に寝転がる臨也。
顔を胸に埋めるように抱きすくめられて、「ひどいのはどっちだ」と目を閉じた。


気付け。ただの嫉妬だから


あの女は何人目だよ。
…俺だけいればいいだろ。




▼あとがき
臨也はシズちゃんの嫌がらせだと思ってます。
対抗心でさらに浮気するっていう悪循環←