ふと思った。「俺はなんでシズちゃんが好きなんだろう?」と。


仕事の関係で池袋に行けず、シズちゃんに暫く会えなかった。
シズちゃんに会いたいなあ、ともはや口癖のように言っていた俺。何度も言っているせいで波江の目は冷たい。

タイピングする手は多少遅く、仕事がはかどらない。そんな俺に波江は眉を寄せているが、上司に向かって冷たい目を向けるやつの機嫌なんてしったことか。


シズちゃん不足が深刻だ。
会いたい抱き締めたい。キスしてそのまま抱いてしまいたい。

そこまで思って――冒頭に戻る。



(なんで好きかなんて、考えたこともなかったなあ)


仕事の手は完全に止まり、自分の中で解答を探す。そもそも最初は死んでほしいレベルで嫌いだった。いつから好きになったんだろう。いつから想いを告げる程に通じあったのだろう。

携帯やパソコンには、止まることなく情報が送られてくる。大好きな人間の情報が。

そうだ俺は人間が好きなのに、なんで化け物であるシズちゃんなんだろう。あまりに今更過ぎる疑問だった。
今更過ぎて答えが出ない。
シズちゃんを嫌う理由ならいくつでも出てくるのに、好きだという明確な理由は出てこない。


彼のことを「可愛い」と形容していたけど、20歳過ぎの大男に「可愛い」は無いだろう。
グラサンがよく似合うほどに強面だし、金髪は一見するとガラが悪い。
俺を見たら二言目には「死ね」「失せろ」「うぜぇ」。これは無い。恋人にこれは無いよ。ツンデレかどうかも怪しいよ。

わからない。何故俺が彼を好きなのか。いつから好きだったか。どうして好きになったのか。


暫く仕事をする気にもなれず、俺は重いため息をついた。












――溜まっていた仕事が終わって、久しぶりに池袋にきた。

賑わう人の群れに、やはりこの街は面白いと感じる。この場にいるにも関わらず、全員が違うことを考えているなんて、人間は本当に見ていて飽きない。


まあ、誰よりも思考が理解できないのは



(あいつだけどさ…)


前方に見えた金髪に、内心そう思う。
シズちゃんは何故俺なんかと付き合っているんだろう。俺は何故シズちゃんと付き合っているんだろう。


シズちゃんも俺に気付いて、昔とは違う、落ち着いた歩みでこちらに近付いてきた。

途端に、理解した。


「…よお。久しぶりだな」


サングラス越しに俺を見てくる目。その目はどこか優しい。
サングラスに反射して映った自分の顔が、あまりに間抜けで笑いそうになる。


「…テメェが来ない間、なんでテメェが好きなのか今更考えてみた」


どうやらシズちゃんも同じことを考えていたらしい。本当にシズちゃんの思考は予想できない。


「テメェは卑怯くせぇし、趣味は悪いし、人間としては最低だ。なんで好きかわからなかった」


ああシズちゃんも同じ結論だったわけ。
困ったな、と苦笑したら、シズちゃんが「でも」と俺に微笑んだ。


「今日テメェ見てわかった」
「…同じこと考えたなんて、珍しいなあ」


肩をすくめて、シズちゃんが続ける言葉を一緒に言った。



「理屈じゃないんだ!」


理屈も言葉も道理も必要ない。

俺は君を愛してる!!



▼あとがき
またしても夜のテンションです。困ったものです。

この現象は、私が「自分なんでBLなんて好きなんだ…?」と実際に陥りました←
厳つい男相手に可愛いっておま…。男同士が絡んでて萌えるっておま…。
軽く自分に絶望しながら、PCを開いて、お気に入りサイト様を見て一言

「理屈じゃねぇよな!!」

好きなものは好きなんです←