ある日臨也から、久しぶりに一緒に夕飯を食べに行かないかと誘われた。

連絡があったときは仕事中だったが、「わかった」と短い返事だけしてやった。


平和島静雄と折原臨也が一緒に飯なんて…いや、一緒にいるなんて、池袋の人間からしたらありえないだろう。


(だけど…まあ、いいか)


周りの目よりも、臨也に会える喜びのほうが勝り、今俺は待ち合わせ場所に来ている。

後で店に行くんだからと、喫茶店などではなく屋外での待ち合わせ。
雲行きが少し怪しくなってきていたが、待ち合わせ時間までは持つだろう。


待ち合わせ時間は5時。
今の時間は4時45分。


少し早かったな、とぼんやり思いながらタバコに火をつける。
そもそも俺が先につくなんてことが珍しい。…たまには待つのもいいかもな。

15分くらい、まあ待ってやるか、と考えながら、ふーっとタバコの煙を吐いた。















「……」


時間ピッタリでくると思っていた臨也は、30分経った今も姿を現さない。

15分の遅刻に、短気な自分が苛立ちはじめているのがわかった。


(おせぇ…自分から誘っといてよぉ…)


短くなった、何本目かのタバコを携帯灰皿にぽいっと入れて、新しいタバコを取り出す。


さっさと来ねぇと殺す。


怒りを飛ばすように空を見上げる。

天気がさらに悪くなっていることに、小さく舌打ちをした。










それから更に30分が経った。
つまり待ち合わせ時間から45分遅刻してるわけだ、あのバカは。

ギリギリとフィルターをきつく歯で噛んでしまう。
行き交う人々は、そんな俺から発せられる不穏な空気に歩く足を早めていた。


なんで来ねぇんだアイツ。

待ちぼうけてる俺をどっかから見てるんじゃねぇだろうな。
趣味悪いアイツならあり得そうでうざい。

それとも仕事が長引いたか?
自分から誘っといて、自分のスケジュールも管理できねぇのかよ。


今どこにいやがる、と苛立っていたら、鼻先にぽつ、と水滴があたった。

そのままぽつぽつと雨が降ってきて、幾度めかの舌打ちをした。

小降りのうちに来なかったら殺す。












――それから、アイツが来ないまま更に1時間が経過した。

小雨だった雨は本降りとなり、容赦無く降り続けている。


たっぷり雨を吸ったベストは重くなり、シャツは濡れて肌の色が透けて見えている。
グラサンは水滴がついてうざかった為外して、濡れて顔に張り付く髪の毛を掻き分けた。


(風邪で死ぬことだってあんだぞ…殺されたって文句はねぇよな臨也の野郎…!)


他人からよく「理不尽だ」と言われる理屈を脳内で呟く。
でも今回は理不尽じゃないはずだ。


人はもうあまり通らず、傘をさしている人は怪訝そうな目でこちらを見てくる。

そういえば、臨也をこんなに待つのは初めてだ。
いつもは待ち合わせにも臨也のほうが早く来ているから。

それに気付いて、少し不安が芽生えた。


(なんで今日来やがらねぇんだ…。…もう1時間45分も遅刻だぞ?何かあったのか…?もしかして絡まれたりしてるんじゃ)


怒りが完全に消えて、不安ばかりが募る。







探しに行くか、と髪をかきあげたとき、途切れ途切れに名前を呼ばれた。


「…ハァ…ッシズ、ちゃん…!!」


呼ばれた方向に振り返ると、傘を持った臨也が息を切らしながら立っていた。


「臨也…?」
「ほ、んと…にいるなんて、ハァ、思わなかったよ…!」


俺に駆け寄って、持っていた傘を差し出してくる。
それを受け取ったら、臨也がハンカチで俺を拭き始めた。

大人しく拭かれていたら、臨也が眉を八の字にして申し訳なさそうに謝ってきた。


「ご、ごめんね…仕事が長引いた上に、前に嵌めた奴らが仕返しに来て…あ、いや遅れた俺が悪いんだよ本当ごめん!」


数分前の俺なら聞く耳も持たずに殴り飛ばしていただろうが、今はそんな気分にもなれなかった。


…なんつーか、いいタイミングで来るよなこいつ。


怒りの薄れていた俺は、とりあえず臨也が無事だったことに安堵した。


「いや…来てくれて、嬉しい」


思わず溢れた笑みに、臨也の頬に少し赤みがかかった。

「ああもうっ」といきなり抱き付いてきた臨也に驚いて傘を落としてしまう。


このままじゃ臨也まで濡れる、と思ったが、臨也が離れないため傘を拾えない。だが臨也は構わないのか、嬉しそうに大声を出した。


「シズちゃんラブ!ああもう本当に、愛してる!!」



待機恋愛

まあ、待ってるのも悪くなかった。



▼あとがき
定番ネタ。
雨の中長時間待ってる健気な受けが大好物です。