※来神時代
私はいつでも傍観者だ。
決して関わりを持ちたくないわけじゃない。
僕はその現状を、楽しんで見ていたいだけ。
傍観者になっていれば、僕は楽しいし、あの二人もこっちの立場をわかっているから相談できる。
まさに一石二鳥!こんなにお互いにとって都合の関係もないよね!
ただ勘違いしないでほしい。
傍観者で何もしてないからって、決して楽ではないんだよ。
「――本当、ムカツクよねあの化け物」
保健室で、ぶちぶちと愚痴しながら私の治療を受ける臨也。
言われた言葉に苦笑しながら、腕に包帯を巻いてあげる。
「なら、ほっとけばいいのに」
「…知ってるくせによく言うよ」
僕の言葉に、芝居がかった仕草で肩をすくめる臨也。
知ってる。
まあ知ってるけどさ。
彼にちょっかいをかけるのは、所謂「好きな子ほど苛めたい」というやつで、素直になれなくてつい意地悪しちゃうんだよね。
…それが臨也の行動だと思うと、心底気持ち悪いよ。
一目惚れしたよ!と言われたときは本気で驚いたが、僕は何も言わないし手も出さない。
彼らもそれは了承して私に相談してくる。
(動く気があるのか、無いのかがわからないよ)
ため息をついた僕に「それよりさあ」と臨也が顔を明るくする。
「今日も今日とて可愛いよねシズちゃん!俺に殴りかかってくるときの真っ直ぐな目とか、もうたまらないよ!傍観者の君は一生あの瞳を見れないんだね!心の底から可哀想!!」
「俺にはセルティだけが見えてればいいんだ、よ」
言いながら、包帯の上から傷を叩いてやれば、臨也が「い…っ」と顔をしかめる。
それをいい気味だと内心笑いながら、しっし、と手を振った。
「もうすぐ静雄が来るだろうから、君はさっさと出てって」
「えええ…新羅って俺には冷たいよね」
「僕はいつでも、セルティ以外には平等だよ」
どちらかに肩入れしたら、それはもう傍観者じゃないだろう?
わかっているのか、臨也はフッと笑って出ていった。
さてさて、静雄はどんな怪我をしているのかな、と薬や包帯を用意していたら、程なくして静雄がノックも無しにドアをあけた。
特に驚きもせずにそちらに顔を向ける。
「やあ静雄。ちょうど用意していたところだよ」
「…いつも悪いな」
申し訳なさそうに中に入ってきて、後ろ手でドアを閉める。
静雄はキレなければ温厚な学生なのだが、臨也のせいでそれを知っている生徒は少ない。
(射殺すような瞳が見れなくても、こっちの大人しい瞳を見れるほうがいいと思うんだけどなあ)
臨也に対して内心でちょっとした対抗心を出しながら、静雄を椅子に座らせる。
向かい合うように座って、目立つ傷から治療していった。
まあ、静雄はすぐに治っちゃうんだけど、治癒を手伝う意味でね。
足を台の上に乗せるように言って、蹴られたであろう足を冷やしてやる。
私の治療を受けながら、静雄が「あ゛ー」と唸って頭をガシガシとかいた。
「またやっちまった…」
「まあ、冷静にっていうほうが難しいよ」
ケンカをしたことを毎度静雄は反省しているが、どう考えても最初からエンジン全開でいじめにかかった臨也が悪い。
まったく…僕のように好きなら好きと言ってしまえばいいのに。
まあ、それは臨也だけに言えることではないのだけど。
「今日こそ、普通に接しようとしたのによお…」
「その意気込み何度目だい?どこがいいんだか僕にはさっぱりだよ」
静雄は最初の臨也の印象のせいで、最近自分の気持ちに気付いたにも関わらず、態度を変えることができなかった。
それを悩んで僕に相談してきたのも、ここ最近の話。
臨也が静雄のことを好きなのを知っていた私は、それはそれは驚いたものだ。
でも教えたりはしない。だって僕は傍観者だからね。
苦笑する僕に、静雄が少しだけ笑みをこぼす。
「怪我した後でも俺の相手してくれてるのは臨也だけだしな。…こんな関係でも、関係があるならそれでいい」
だから、両想いなんだからもっと素直になればいいのに。
口には出さない。出さないって決めてあるから出さない。
この二人がうろたえる姿を見るのは楽しそうだが、そのあとの惚気にまで付き合わされるのはごめんだ。
傍観者だから、というより、最近は教えた先を考えて教えないようにしている。
特に臨也だ。アイツが惚気るのは凄く鬱陶しそうだ。
セルティとの時間を守るためなら、俺は友人の恋だって投げ出そう。
「でもまあ…普通の友達にも、なってみてぇけどな」
無理か、と眉を八の字にして諦めたように笑う静雄に、凄く罪悪感に駆られた。
なればいい。
もっと二人とも素直になって、友達でも恋人でも好きな関係になればいいのに!!
背中を押してしまいたい!
だけど勘違いしないでね、僕はずっと傍観者だから!
▼あとがき
傍観者からすれば、両片思い程面倒くさいものはないんだろうなあ。いやあ私としてはぷまいぷまい!←