※来神時代
※名前はありませんがオリキャラ登場






シズちゃんに彼女ができたらしい。



相手は、男子に結構人気のある美人で有名な子だ。シズちゃんにも分け隔てなく優しかったのを覚えている。


(どーせ優しくされてあっさり落ちたんでしょ。単純)


そう思いながらシズちゃんを少し離れた席から見たら、微笑を浮かべて彼女と喋っていた。
それを内心つまらなく感じる。

化け物のくせに人間みたいな感情を持つなんて。
…いや、今回のは化け物だからこそか。優しくされたことなんて、あんまり無かっただろうしねぇ。


最近じゃ、シズちゃんは彼女に気をつかって俺に対しても怒りを抑えているようだ。

つまらないなあ、と一人溜め息をつく。


彼が人間に近づいてしまったことがつまらないんじゃない。
−−彼に相手にされなくなったのが、どうしようもなくつまらなかった。


俺はシズちゃんが好きだ。


だからこそ、「嫌悪」という形であれシズちゃんの中で特別になりたかった。
それなのに彼女なんて。それで俺を相手にしなくなるなんて。


何度邪魔しようと思ったかわからないが、今のように優しい笑顔を浮かべているシズちゃんを見ていると行動を起こす気にもなれなかった。


…シズちゃんが幸せならいいか。

なんて、俺も随時丸くなったものだ。


だが彼女であるあの女−−過去に付き合っていた恋人は、どれも長続きしていないらしい。
なんでも、しばらく付き合っていると彼女のほうから別れを告げてくるとか。


今回はシズちゃんから告白したらしいし、心配だなあ。
だが今シズちゃんと喋っている彼女は楽しそうに笑っているし、大丈夫かな。
だいたい、シズちゃんと普通に関わって魅力に気付かなかったらただの馬鹿だ。


これ以上腹立たしいリア充を見ている気にはなれなくて、ふうっと溜め息をついて、今日はもう帰ろうと教室を出た。






















何個か持っている携帯の中の一つを教室に忘れてきたことを思い出したのは、もう放課後になっている時間だった。

別に支障もないだろうけど、特にやることも無かったので学校に向かう。


夕日が窓から差し込んできている校舎を歩く。
もう大半の生徒は下校しているらしく、遠くから運動部の声が聞こえるだけで静かだ。


(シズちゃんも帰ったかな)


これだけ人の少ない時間に残ってなんかいないだろうな。

教室にも誰もいないだろうと思っていたが、ドアを開けようとしたとき中から声がするのに気づいた。


(…誰が…)


「−−だからぁ…」


聞こえてきたその声がシズちゃんの彼女のものだったから、思わず扉の前で立ち止まってしまった。
静かな校舎では、黙っているだけでも中の声は聞こえてしまう。
聞き耳を立てている状況だけど、まあいいだろう。


彼女は電話で喋っているようで、話相手の声は聞こえない。
電話相手がシズちゃんというわけでもないらしいが、話の内容がおかしかった。


「あの人は違うっていってるでしょぉ?」


彼女はこんな口調だっただろうか、と眉を寄せていると、さらに彼女の言葉が続く。


「用心棒みたいなもんだってぇ。彼氏にしておけば怖い人たち寄ってこないし?」


は?


彼氏にしておけば?

だんだんと彼女の真意がわかってきて、ちょっとした驚きがこみ上げてくる。

そして彼女は次の一言を言った。



「優しくしたらすぐ落ちるんだもん!あんな化け物、本気で好きになるわけないのにさぁ!!」



ガラッ!


−−気が付けば、俺は教室のドアを勢いよく開けていた。


驚いたように振り返ってきた彼女は、俺だと確認すると少しホッとしたようだった。

携帯を閉じて俺に笑顔を向けてくる。


「なんだ、折原君かぁ。本人だったらどうしようかと思っちゃった」
「……」


何も答えない俺を無視して、よかったよかったと笑う彼女。

よくないよねぇ。



「折原君は平和島君のこと嫌いだもんね?他の人だったら危なかったけどー」
「……れ」
「え?」



「黙れ」



へらへらと喋る彼女を睨みつけてナイフを向ける。
え、と驚いたように短い声をあげる彼女。


「ど、どうしたの?」


俺なら大丈夫と言っていた彼女は、訳が分からないというように俺に訪ねる。

怒りで震える手を抑えながら、口元に笑みを浮かべる。
いつも通りの、完璧な作り笑い。


「不愉快だよ。何?シズちゃんこんな女を気に入ったわけ?いや…何よりも不愉快なのは、シズちゃんを利用しようとした君かなぁ」


ナイフを向けたまま近づくと、彼女も同じ歩数だけ下がる。
自分がぶつかった机ねガタンという音にさえ反応している彼女が滑稽で仕方なかった。
ナイフは向けたまま肩をすくめて、やれやれと首を振る。


「まったく、シズちゃんの優しさも分からないくせに出しゃばらないでほしいよねぇ」
「え、ぇ、お、折原君って、平和島君のこと嫌いなんじゃ」
「論点を変えないでよ。俺は君に不愉快だって言ってるの」


笑顔を消して再度睨めば、彼女は怯えた表情で更に後ずさった。
無言で詰め寄ると、彼女の背に壁が当たる。

首だけ振り返って「うそ」と呟く彼女を笑ってやった。


「現状把握ぐらいちゃんとしておきなよ」


言いながら一気に距離を縮めて、彼女の顔のすぐ横の壁にナイフを突き立てた。
実際、壁はコンクリートでできているから刺さるわけないけど、突き立てたままで彼女の顔に顔を近づける。

目の中をジッと覗けば、恐怖の色がハッキリと見えた。
その様子にハハッと笑う。


「滑稽だなぁ!なんでだろうね、君は美人だと言われているし俺もそう思っていたのに−−今は、薄汚くしか見えない」


ナイフの向きを変えて、刃の部分を彼女の顔に押し当てる。
薄く切れたのか、つぅと血が一筋流れた。
頬が切れた感触に、更に恐怖を抱く彼女。

彼女の目を真っ直ぐに睨みつけて、低く声を出した。


「…もう、シズちゃんに近付かないでくれる」










「……い、ざや…?」


ドアのほうから聞こえた声に、ハッと振り返る。
そこには、驚いた顔をしたシズちゃんがいた。

俺が壁に追い詰めていたのが自分の彼女だと気付いて、俺のことを睨んでくる。

「テメェ何して…!」


ずかずかと近付いて、シズちゃんの言葉が中断した。

教室が薄暗くて見えなかったであろう彼女の頬の傷に、気づいたようだった。

気付いて、歩幅を広くして近付いてくる。
殴るように俺を横に押して、彼女の頬に触れた。


「大丈夫か?」
「う、うん…」


彼女の血を制服の袖で拭うシズちゃん。
水色のブレザーの袖は、彼女の血で焦げ茶に近い色に変わる。
ああ、ああ、ああ、彼女なんかの血で汚れてしまった。


何も言えずにその様子を見ていた俺に、シズちゃんが顔を向ける。
見たこともないほど起こった表情をしていて、思わず体がビクリと跳ねる。

いつもの余裕は作れていないが、シズちゃんにも余裕なんかないのか、気付かれなかったらしい。
チッと舌打ちをして、彼女の手を引いて歩き出す。



「…最低だな」



言われた言葉に、今度は動けなくなった。


違う。だって、その女なシズちゃんのこと愛してないんだよ。
シズちゃんのこと利用しようとしてたんだよ。


言ってしまおうかと思ったが、すぐに駄目だと思った。
化け物扱いされていたなんて知ったら、シズちゃんが傷付いてしまう。

すぅと息を吸ってわざとらしいくらい大きく「ざーんねん」と声を出す。


「その子さえいなければ、シズちゃんはもとの化け物に戻ると思ったのになぁ!」
「臨也…!テメェ!」


怒りに満ちた顔で振り返ってきたシズちゃんに、すぐ崩れそうになる笑顔を必死に作った。


「でも、俺の手にかかれば女子一人の人生潰すくらい余裕だよ?犠牲者出す前に別れたらー?」


そう言ったら動揺して足を止めたシズちゃん。
その横を通って教室を出た。



これでいい。
好きになった人に裏切られるよりは、嫌いな奴に酷いことを言われたほうがいい。
あのままにしていたら、彼女はいつかシズちゃんに向かって「化け物」と言っただろうから。


外に出るともう日は沈んでいて暗くなっていた。
家までの道のりを歩いて、溢れかける涙をこらえる。


ああ、携帯結局忘れちゃった。
シズちゃんに押されたせいか体が痛い。
明日からまた、どんな嫌がらせを仕掛けてやろうかな。



『…最低だな』


脳内に響くシズちゃんの声。
どんなに違うことを考えようとしても消えてくれなかった。

もう嫌だ。シズちゃんの馬鹿。
俺がどんな気持ちだったと思ってるの。
人の気も知らないで「最低」って、それこそ最低なんじゃないの?

ああもう嫌だ。
忘れてやるこんなこと。厄介な感情と一緒に記憶から消してやる。

忘れるのは得意なんだよ。
いつもみたいに3歩歩けば余計な情報は消えるはず


ほら、


1、

2、

3、




3歩目で涙


家まで歩くから、それまでに消えてくれ。


▼あとがき
シズちゃんの為に自分を犠牲にする臨也。

…私はどうやらかわいそうな臨也が好きらしいです。