信じられるだろうか。



今俺の横を歩いているのはあの平和島静雄。俺の天敵だった人間だ。
そんな彼と俺が今、恋人同士だなんて、信じられるだろうか。

高校からの長年の想いが成就し、お付き合いができることになって今日で晴れて1ヶ月。
基本的にシズちゃんが俺の家に来てまったりして、そして今のように歩いてシズちゃんの家まで送っている。


隣を盗み見れば、すれ違った車のライトに照らされて金髪がキラキラと光っていた。


――うわあ…。


綺麗、と思わず息を呑む。

本当に、本当に夢みたいだ。
シズちゃんが俺の恋人だなんて。

未だにシズちゃんと二人きりだとドキドキとして、幸福感に包まれる。
いつまで経っても乙女のような自分に、ほとほと呆れた。


(…攻めは俺…のはず。シズちゃん綺麗だし可愛いし。俺シズちゃん抱きたいし。…でも)


嫌われちゃうかも。

そう思うと行動ができない。
試しにそっとシズちゃんの手に手を伸ばす。指を絡めたら、シズちゃんの体が一瞬固くなった。


(緊張?…嫌悪とかだったら死ぬなあ)


昔は嫌われることをたくさんしてきた。だからこそ、付き合い始めた今はなるべくそういう行動は避けてきた。

傷つけたくない――という建前すら言えないほどに、傷つきたくない。


「あー…シズちゃん」
「……」
「…手ぇ、ちゃんと握っていい?」
「………ん…」


小さく頷いたのを見て、きゅっと手を握る。それだけで


(…あー、幸せ)


しみじみとそう思う。
シズちゃんの耳が赤くなっているのを見て、さらに幸せになった。

今まで色んな女の子達と遊んできたが、ここまで満たされた感覚は初めてだ。
それは俺がシズちゃんを心から愛しているからだろう。

そう、俺はシズちゃん以外愛したことが無かった。

人間はもちろんラブだけど、個人に愛を叫ぶのは彼だけ。
だからこそ、付き合って初めて気付いた。
――自分が、本命相手には酷くヘタレになるということに。

信じられるだろうか。

眉目秀麗で、今まで数々の女の子を抱いて泣かせてきたこの俺が、シズちゃんとはまだキスもしていないのだ。


理由は嫌われたくないから。

チャンスが無いわけじゃない。
この帰り道は人通りが少ないから、正直いつだってできる。
車が来ない間に…何度そんな妄想をしたことか。

しかし妄想は妄想のままで、もうすぐシズちゃんの家についてしまう。
折角長く一緒にいるためにわざわざ電車に乗らずに来ているのに、これではあまり意味がない。


(一緒にいるだけでもいいけど)


だけど横を見るたびに唇に目がいってしまう。

一度見すぎてシズちゃんに「?なんか付いてるか?」と首を傾げられたことがあったが、そのときは本当に焦った。
下心がバレたらシズちゃんに嫌われてしまう。


嫌われることばかり気にする自分に「意気地無しだなあ」とため息を吐いたら、曲がり角を曲がろうとしたシズちゃんがこちらを振り返った。


「どうかし…」


チカッと、シズちゃんの後ろから車のライトが見えた。
ぶつかりそうだ、と思って慌てて繋いでいた手を引っ張る。

いきなりのことに「わっ」と小さく声をあげて、バランスを崩したのかそのまま俺に体重をかけてくるシズちゃん。


危ないなぁ、とシズちゃんにぶつかりそうになった車の後ろ姿を睨み付けた。
まあシズちゃんは轢かれても怪我とかしないんだろうけど。


「シズちゃん、大丈夫――」
「あ、ああ…」


肩に頭を乗せていたシズちゃんの顔を覗き込むと、バチッと視線がぶつかった。


(――…あ…)


間近にあるシズちゃんの顔。吐息がかかるほどの距離で、お互いに目が逸らせない。


――キスするなら、今なんだろうなあ…。


そう思って、シズちゃんの肩を掴む。
ビクリとシズちゃんの体が震えたのを感じて、あ、と我に返った。


――キスしたら嫌われる…!?

しまった、調子に乗りすぎた。
パッと視線を逸らして、シズちゃんの体を離す。


「く、車危ないねぇ。気を付けてね」
「……臨也」
「あ、で、でもシズちゃん轢かれても…いや、でもやっぱ危ないか」
「臨也」


シズちゃんが声をかけてくれるが、慌てている俺の口は止まらない。
必死に今の状況を誤魔化そうと、言葉が出てきてしまう。


「でも、シズちゃん家もうすぐだし、もう車も――」


言っている言葉を遮るように、ちゅ、と軽い音が唇から聞こえた。


目の前にシズちゃんの顔があって、一拍遅れてキスされたことに気付いた俺は目を丸くして驚いた。


「……」
「シ、シシズちゃん…!?なんで…」
「…テメェが、してこねぇからだろ…ッ!!」


顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまったシズちゃんに、え、え、と未だ戸惑う俺。

耳まで赤くしながら歩き出そうとしたシズちゃんの手には、さっきよりも若干力が入っていて正直痛い。

だけど、その痛みに釣られるように俺は口を開いた。


「…シズ、ちゃん」
「………」
「俺からしても、いい?」

言った瞬間に、「調子に乗りすぎた」と後悔したが、シズちゃんは体をこちらに向きなおして、真っ赤な顔のまま小さな声で返事をしてくれた。


「…好きにしろよ」
「…うん」


そっと顔を近付けて口付ける。
俺の唇はみっともなく震えてしまっていたが、止まらなくなって何度もキスをした。




そこからは無限ループ












――舌入れたら、嫌われるかな…。




▼あとがき
「意外と奥手で中々静雄にキスが出来ない臨也と、それにイライラして恥ずかしがりながらも自分からキスしちゃう静雄」でした。

臨也視点にしたせいで静雄の心情が書けなかったのが心残りです(´・ω・`)
帰り道はもやもやハラハライライラしていたに違いない。

キス、という単語を見た瞬間に「この話を書くときは間を空けちゃだめだ!振り返ってはだめだ!!」と悟ったため、いつもよりも勢い任せな文になっている恐れが…(´・ω・`)
冷静に書いたら羞恥で死ぬと思ったんですorz


リクエストありがとうございました!