※初めてのお使い パロディです。温かい目で見守って下さい。ほとんど嫁と子供たちの出番です。地の文のナレーションはもちろん、あの番組のあの方です。思い浮かべながら読むと、楽しいかもです。




 魁音くんと悠音くんはそれぞれ五歳と二歳七ヶ月、男の子二人兄弟です。でももうすぐ二人には妹が生まれます。魁音くんは悠音くんのお兄ちゃんとしてとてもよくやってくれていますが、初めて下のきょうだいが出来る悠音くんは、まだまだ甘えん坊でぼーっとしているから、ママはちょっとだけ心配。そこで二人をおつかいに出して、お兄ちゃんとして頑張ってもらおうとパパとママは二人で考えました。

「魁音ー、悠音ー」
「なにー?」
「なあに?」

 ママが二人を呼ぶ声がします。大きなお腹を抱えたママ、もうすぐ八ヶ月になります。赤ちゃんはパパ待望の女の子、二人の妹になるんです。
 パパは妹が出来る前からいつも「男の子は、女の子や弱いものを守れなきゃダメなんだ。大切なものは、自分でちゃんと守ること。パパは、ママも魁音も悠音も大切で大好きだから、みんなを守れるように頑張ってる。だから二人も頑張れるようになって欲しい」って言い聞かせてきました。
 時にはママを取り合ってパパと喧嘩する日もあるくらい、二人にとってママは大切で大好きな人です。そんなママが、なんだか困った顔をしています。

「ねえ、……これ何だと思う?」
「んー……」
「お弁当! パパの!」
「そうなの! パパ忘れ物していっちゃったみたい……」

 パパと魁音くんと悠音くん、三人のお弁当入れはママのお手製でお揃いです。一番大きいのがパパの、次が魁音くん、一番小さいのが悠音くんのお弁当入れです。今日、パパは朝からお仕事のはずなのに、ここにお弁当があるってことは……?

「パパ、おべんと……ない」
「パパ困っちゃうよね……どうしよう」
「届けなきゃ!」

 パパに届けなきゃと真っ先に声を上げたのは、やっぱりお兄ちゃんの魁音くんでした。その影でもじもじしている悠音くん。これじゃあ二人っきりでは行ってくれないかな……? とママはちょっと不安になりました。そこで一つお芝居を打つことにします。

「ねえ、魁音と悠音の二人でパパのところに届けられるかなあ?」
「二人で……? ママは?」
「ママねぇ、朝からおなか痛くって……、ちょっとこれ以上は動けないかも……。パパのところ、ママの代わりにいける? 二人でお弁当届けられる?」

 お腹をさすりながら、少し顔をしかめます。役者なママです。少し心は痛みますが、二人は顔を見合わせて作戦会議を始めたようです。ママ、お腹痛いんだって。はるちゃん頑張れる? そんな声が聞こえて来そう。パパとした約束。男の子は大切なものを守らなきゃいけないんだ!

「……届ける!」
「ほんとう?」
「はるも、がんばる……」

 悠音くん、ちょっと不安そうな顔をしているけど、お兄ちゃんになるんだ! って頑張ります。二人ともありがとうね、って言いながら抱きしめてくれるママの腕を離れるのはちょっぴり寂しいけど、これも全部、お兄ちゃんになるための試練です。そうと決まれば即行動です!

「じゃあ、二人ともこっち来て?」
「うん」
「必ず、二人で手を繋いで歩くこと。信号は?」
「右、左、右! 青でわたる!」
「……車よく見る」
「よくできました! ママね、二人のためにおまもり作ったから、これちゃんと付けていってね?」
「ネコちゃん!」

 ママお手製の、ネコちゃんが付いたおまもりです。しっぽだってちゃんとあるんです。実はこの中にマイクが入っているのは二人にはないしょ。
 魁音くんのおまもりには「できる」、悠音くんのおまもりには「がんばる」の文字が刺繍されていました。もう三年もお兄ちゃんをしている魁音くんは、「かいと出来るよ!」とママを手伝ってくれることが増えてきました。それに対して新米お兄ちゃんの悠音くんは、まだまだ不安がいっぱいで、でも小さな小さな声で「がんばる」と言ってくれることが、ママはとっても嬉しかったんです。つらくなって下を向いた時、この刺繍を見て「できる」「がんばる」って言ってくれたらいいな、ってママは少しだけ不安そうに言っていました。
 不安なのは子供たちだけじゃないんです。ママも、もちろんパパだって、今日を迎えるまでずっと、そわそわと落ち着かない日々を過ごしました。それでもお使いに出すって決めたから、ママはそっと背中を押します。

「よし、それじゃあパパが待ってるから、いつものところだよ?」
「うん、いってきます!」
「いってきまぁす」

 玄関を元気よく出て最初の角を曲がるまで、二人はいつにも増してママに手を振ります。何回も、何回も。ママが見えなくなるまで、何度も振り返りますが、だんだんと二人の「ばいばい」は遠ざかっていきます。ちゃんと前見ないと、転ぶぞ! そんな風に思いながら、名残惜しいのはママもいっしょ。




 おまもりのしっぽが二本、ぴょこぴょこと揺れています。その後ろ姿をほほえましく、ちょっぴり寂しそうに見守るママ。まさかネコちゃんで、あんなことになるとは、誰も思いもよらなかったのです。




;)20170131



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