「えいちゃんごめん! お風呂入れてもらってもいい?」
「あいよー!」


 冷蔵庫の中身と給食の献立表と交互ににらめっこをするなまえは、夕飯の準備に追われて忙しい。給食のメニューと夕飯を決して被らせないという崇高なポリシーを持ってる超家族思いで超超料理上手なハニィのために、ダーリンがいっちょ一肌脱ぐとしましょうか! 風呂だけにな!
 テレビの向こうのアニメに今にも吸い込まれそうな瑛輝とひなたを両脇に抱え上げると、片や浮遊感に固まり、片や嬉しそうな悲鳴を上げた。ラグに座ってお絵かきをしている(絵はオレに似なかった! 心底良かったと思う)ひまりは集中力がハンパじゃないのか、キャッキャと騒ぐひなたの声にも動じない。


「ひまりちゃ〜ん、お風呂行きますよぉ〜」
「えーくんじゃなくてママがよかった〜……」
「つれねーコト言うなよォ……えーくん泣いちゃうから! そういうこと言うと!」


 およよ、と泣くフリをして顔を覆うと、「ウソ泣きじゃあん!」と揃った声。優秀なツッコミDNAに感激しながら、風呂場を目指していざ行かん!
 脚でドアを開けるクセは、ひまりが生まれる時に超頑張って直した。何か、ホントに何となくだけど、子供にそういうの見せちゃダメだと思ったし。オレ、こんなんでもパパだから! オレの両手が塞がっていることに気付いたのか、ひまりが風呂場のドアを開ける。こういう気を使えるトコは、なまえにしっかり似てくれちゃって、些細なことが愛おしい。


「ありがとなー」


 瑛輝とひなたを下ろしてから、ひまりの頭をこれでもかってくらい撫で繰り回す。きゃあ、と高い笑い声がして、オレの手を捕まえようと小さな手が動く。もう少しいじめていたいケド、キッチンに一人残したハニィが寂しがってる!(ハズ!)チャチャッと風呂に入れてイチャイチャしよーっと心に決め、服を脱ぐように促す。


「一人でおよーふく脱げる人!」


 オレが挙げた手に負けじと競うように小さな手を挙げ、一人で出来ると主張する。そしてそれを証明するように我先にと服を脱ぐ様子を微笑ましく見守る……。すげえ……オレちゃんとパパしてんじゃん……!


「ひまりがいっちばーん!」
「シャワー最初冷たいから気ぃつけろよ!」
「わかったあー!」


 ボタンを外し忘れて頭が引っかかった瑛輝のシャツを、ボタンを外してやって脱がせて、ひなたの子供服もチャチャッと脱がせる。そうしてさっきと同じように二人を両脇に抱えると、風呂場に突入だ!







 ウチの風呂場はいくら子供と言えど四人で入るにはちょっと狭い。だから洗い場と湯船に二人ずつになって洗いっ子をする。まだ一人で上手く洗えない瑛輝の頭を、わしゃわしゃと洗うひまりのお姉ちゃんっぷりに感動しながら、オレも湯船の中からひまりの頭を洗ってやる。


「かゆいところはございませんか〜?」
「ないでーす。きーくんはかゆいところはございませんかあ?」
「ないですー」


 美容院ごっこをしながらひまりの頭をどんどんと泡立てていく。オレのマネをして瑛輝にも美容院ごっこをしてあげると、目を瞑ったままの瑛輝もそれに応える。ひまりの髪の毛はオレよりもずっと細くて指に絡まりそうだ。髪質はなまえに似ている気がする。定番のツノを立ててやって、泡でリボンを作ってオヒメサマにして〜……。髪の毛で遊んでやっているとホントに時間はあっという間に過ぎる。


「あ〜……そろそろ流すぅ?」
「ん〜、もーちょっと遊んで!」
「はいよー」
「えーくうん」


 ハイハイ今度はひなたちゃんですか〜。パパモテモテで大忙しだねコリャ。何かと思って湯船のバス椅子に座っているひなたを振り返ると、その小さな小さな手に溜めたお湯をオレの肩にかけてくる。


「えーくんさむいさむいよ?」
「あ、りがと」


 ひなたのてのひらはオレよりずっとずっと小さくて、肩にかけてくれるお湯だってほんのコップ一杯分にも満たない。それなのに、まだ赤ちゃんを卒業したばかりみたいな顔をしてるのに、どうしてこんなに温かいんだろう。たまらなくなって泡だらけの手もそのままにひなたのことを抱きしめる。きゃあ、と嬉しそうな声をあげているひなたはきっと、オレがいつもみたいに遊んでるんだと思ってる。


「えーくん、どうしたの?」
「……なんでもなーい」
「あわあわ、おふろにはいっちゃうよ?」
「今日はいいの!」


 洗い場から瑛輝とひまりの声がする。ちょっと泣きそうなかっこ悪いオレは、誤魔化すようにひなたのほっぺにちゅーをする。ひなだけずるい! といっちょまえにヤキモチを焼くひまりに笑いながら、二人にもしてやると、風呂場は途端に子供たちの笑う声でいっぱいになった。


 狭い湯船は嫌いじゃない、ぎゅうぎゅうになりながらみんなで笑い合えるから。でも次に引っ越す時は、オレとなまえ、そして子供たち、五人で入ってぎゅうぎゅうになれるくらいのところにしよう。








20161230;)







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