6限が終わったことを知らせるチャイムが鳴る。6限に受ける日本史ほど眠気を誘うものはないけど、そんな日本史が終わったからこそ、みんなが開放されたとばかりに一気にしゃべり出す。そんなあたしも前に座っている友達と、放課後の話を始めた。



「今日久しぶりにどっか行きたいね」
「あー行きたい!あ……でもなまえ掃除じゃん?」
「え、あ。……ほんとだ。今日から担当変わるんだ」
「うーん。ま、ドンマイ!また今度だねぇ」
「うん……」



 今日から掃除当番が変わることをすっかり忘れていた。朝はぼーっとしてたからなぁ。でもまだ教室掃除だったのが救いだ。これが特別教室だったら移動に時間がかかるし今から行ったんじゃそもそも間に合わないかもしれない。あの先生はちょっとの遅刻でもネチネチうるさいからなぁ。



「なまえー!」
「何ー?」
「藤代くん知らない?」
「何、いないの?」
「うん、教室掃除なんだけどなぁ」
「……サボりか」
「かも、探してきてー」
「え、なんであたしが?」
「だって委員長でしょーが!」


 そんな横暴な……、ため息がもれる。大体何処行ってるのかなんてわかんない……わけじゃなかったりする、実は。はっきり言うとこれが初めてのことじゃない。週に1回くらいの頻度で、藤代くんは掃除をサボって何処かへ行ってしまう。サボって行く場所は特に決まってなくて、雨が降ってれば特別教室棟の方へ、晴れていて風のない今日みたいな日は、



「屋上……かな?」





 本来立ち入り禁止のはずの屋上は、卒業した先輩が鍵を開けやすいように作ったヘアピンらしきものがフル活用されていて、立ち入り禁止を守っている生徒はあまりいない。鍵はきっと開いているだろうと予想してドアノブを回す。何の滞りもなくスムーズに回ったドアノブを押すと、それに反して少し軋んだような音がした。


 一気に開けた視界に、真っ青な空と大きく育った白い雲が飛び込んできた。わぁ、とため息をもらしながらも、後ろ手にドアを閉める。鍵は開いてたけれど、肝心の藤代くんは見る限りいない。



「……藤代くん?」



 返事もない。ここにはいないのだろうか。だとしたら何処だろう?今日は裏庭には陽が当たってなくて寒いから行ってないだろう。中庭……は目立ちすぎる、掃除をサボってるのがクラスメイトにばれてしまうだろうし、何より藤代くん自体が目立つから、絶対行かないかな。髪の毛を弄りながら、キョロキョロとあたりを探す。



「っ、あっはは!いいんちょー、こっち!」



 空から笑い声が降ってきた。まぁ言ってしまえば、藤代くんは給水塔の方にいたのだ。爽やかな彼の声は、心地よく空に馴染んで溶けていった。笑われたのに何故だか憎めない、そんな声でいつも笑う。



「ちょっと!今日から掃除!」
「あ、忘れてた!ごめーん!!」



 ごめーんって。謝る気がないでしょう。そもそも掃除がないと思ってたんならさっさと部活に行けばいいじゃない。仮にも(ってわけでもないけど)ウチのサッカー部のエースなのだから。先輩たちにもきっと怒られるだろうし(こないだなんて三上先輩に思いっきり頭を叩かれてた)。



「なんでいっつもサボるのよ」
「だってこっから見える景色めっちゃキレイなんだよ!この時間帯だけ!」
「綺麗は綺麗だけどさぁ…」
「それに!!」



 やけに大きい声を出したから、思わず藤代くんを見上げる。笑顔だけど、いつも教室で見るような笑顔じゃなくて、言うなればサッカーをしているときのような、真剣味を孕んだ笑顔で。



「いいんちょー、追っかけてきてくれるでしょ」



 その文章の終わりは肯定で結ばれていて、どこか確信めいたものを感じさせた。さっきまでの笑顔は、いたずらが成功した子供の笑顔に変わっていて、言い逃れはできそうにないことを物語っていた。



「……っそうだけど!」
「あー!よかった!!」
「は?」
「いや、ね?実は俺のカンチガイだったらどうしよー!とか思ってて、したらめっちゃ恥ずいじゃん俺?」
「……はぁ」
「え、何?なんか俺だけテンション上がってね?」
「、うん」
「俺だけ一方的に好きみたいでヤダ!」



 ……なんてダダをこねるんだ、言わなくてもわかるじゃない。どうでもいいただのクラスメイトのサボりをわざわざ咎めに来るほど、あたしは出来た委員長じゃない。今度はうって変わって問いつめられる側になったあたしをニヤニヤ見ながら、藤代くんは給水塔から降りてくる。



「ね、言ってくんないの?」
「……っ!」
「ねーってば!」
「っ今は、掃除!掃除行くよ!!」
「えー、ちょ!なまえちゃーん?早いって!」



 後ろで叫んでいる藤代くんは無視した。赤く熱を孕んだ頬も、主張を止めない心臓も、全部ぜんぶ無視した。あたしの下の名前を呼んだ、藤代くんの声も。






(恋の始まりと、)(胸のときめき)




:)20110112




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