大事な話がある、と言われたとき、ものすごい勢いで頭の中をいろんな可能性が駆け巡った。こないだなまえが大事に取っておいたプリンを勝手に食べたのがついにバレたか〜〜とか、先々週の金曜に盛り上がりすぎてちょ〜〜〜〜〜ッとハメを外しすぎたかなとかでもあのときお前も満更でもなかったじゃん! とか、昨日(というかむしろ今日)完ッ全に出来上がって朝に帰ってきたコト怒ってんのかな〜〜? なんて考えながら、頭の中では無視できないくらいにでっかく、一つの可能性がありありと浮かんでいた。


 こんなオレに、いよいよ愛想尽かしたか。


 オブラートに厳ッ重に包んで更に鍵かけた箱にでも入れて表現するならば、オレの感情の起伏はいささか激しすぎるらしい。某テーマパークもビックリのジェットコースターって言うか? 安全性で言うならばアメリカかどっかのオッサンが趣味で庭に作ってしまったコースターばりにアブナイ。そんなこと言われても気付いたときにはもうこんなんなっちゃってたんだからしょーがない。しょーがないとは言っても、そのせいで今まで何度も何度も何ッ度もなまえをいろんなコトに巻き込んで、その度なまえを酷く悲しませた。その時には罪悪感に塗れて死にそうだったしいっそ死にたかった。それでもおかしい方向に育ったオレの歪な愛情を、正しい方向に、正しい形に直してくれるのはなまえだけだったから。辛い思いをさせているのに手放さないで、手放せないでここまで来た。
 これはいよいよ『実家に帰らせて頂きマス』ってやつか?! なーんて、結婚もしてないのにドラマの見過ぎだっつーの。今時こんなやり取りをする夫婦って実際どれくらいいるんだろうか。頭の中でボケるオレとツッコむオレ。ホントのオレは冷や汗をかきながらなまえの第一声にビビりまくっているしょーもなくカッコ悪いただの一人の男だ。
 

「あのね、こないだから具合悪くて……」


 あ〜〜〜〜そうですよね具合の悪い彼女放って飲んだり遊んだりしてる男なんてホントどうかと思う〜〜〜〜! ウンウンそんなサイテーな男早く切っちゃった方が良いに決まってるよ〜〜〜〜新しい男探そ?? って自分のコトだっつの。具合の悪い彼女労れずに何が未来の旦那さまだ早く死んだ方が良い。あ〜〜、死ぬとか言わねぇって約束したのにこの体たらく。頭の中だけど。


「病院行ってきたんだけど……」
「……そんで?」


 違うそんな冷たいニュアンスで言いたかったんじゃない。心配はしてる! こんなロクでもないどうしようもないオレに付き合ってくれる大切な大切な彼女なんだから! でも心配してるよ〜〜〜〜ってあからさまにニュアンス乗せて伝えたら『は? 今更心配してきてなんなの』とか思われるのもなんかアレだしそんな風に思われたらオレはいよいよ生きていけないって言うか今生きてるのが若干奇跡みたいなモンだし要するにこんなみみっちぃコトを考えてる自分がもうどうしようもなく! 嫌! だ!


「デキてる、って……」
「あ〜〜〜〜うんナルホド……」


 言いたいことはわかるしオレがどんだけクソ野郎かってのも重々承知してるのでそこに関してはホント触れないで頂きたいって言うか今すぐに直すってのは無理なのでちょっと時間を頂けない、です、……は?


「今、なんて?」
「赤ちゃん、二ヶ月だって……」


 顔を上げてすぐ、後悔した。話があると言われて、今の今まで一度もなまえの顔を見ていなかったコトに気付いたから。目の前のなまえの表情は不安を体現したかのようで、それはきっと、少なからずオレの態度が原因だということは明らかだった。今にも泣き出しそうな顔をさせて、何がしたいんだろう、オレは。今ここにオレが存在するのは、なまえのおかげで、彼女はオレに存在して良いと言ってくれて、そして今もまた新しく、オレが存在する理由をくれているのに。
 彼女の目元を縁取る不安の雫が、零れるよりもずっと早く抱きしめたかった。立ち上がった瞬間、膝の裏に椅子が当たるのを感じた。世界がスローモーションになっていく。すげえ、ホントにスローになるんだ。椅子が倒れきるのが早いのか、零れ落ちるのが先か。


「ごめんとか、言わないで、言っちゃダメ」
「え……?」


 閉じ込めた腕の中からくぐもった疑問符が聞こえた。オレの方がごめんなのに、これ以上は言わせたくない。こんなどうしようもなくてごめん、いつも泣かせてごめん、不安にさせてごめん。伝えなきゃいけない謝罪がいっぱいあることも、変わっていかなきゃいけないことがあることもわかってるけど、今一番言わなきゃいけないことは、こんなオレでもわかってる。


「オレをパパにしてくれて、ありがとう」


 ああ、今流れ落ちたその涙の成分に、不安は入っていないと信じても良いのか。自惚れても良いのか。


「指輪、見に行こう。そんで親御サンに挨拶も行って、式は……あ〜〜、今すぐは無理カモだけど……。そうしたら産まれた子と一緒の式にしよう」
「……いいの?」
「なんで? おとーサンに殴られる覚悟までしてっケド?」


 あ、やっと笑った。今まで泣かせたことはホントに多いけど、これからは笑顔をたくさん増やしていこう。笑顔の写真をたくさん撮ろう、オレと、なまえと、産まれてくる新しい命と。目の端に浮かんだ涙の粒が零れないようにそっとキスを落とすと、そんな筈ないのに甘く感じた。まだ膨らんでいないなまえのおなかにおそるおそる手を当てる。


「まだ動いたりしないよ?」
「……なんだ」


 何もかも知識不足なオレだけど、これから勉強していこう。聞こえてるのかわからないけれど、言わせてほしいことがあるんだ。


「オレたち二人のところに来てくれて、ありがとう」

















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「そういうのはまず事務所に報告するニャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」



:) 20161029


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