ずいぶんと前に見たアイツの背中には、やけに白く見える正方形の真ん中に黒々とした「1」の数字が浮かんでいた。その正方形がやけに白く見えたのは、ユニフォームに入り込んだ砂粒が、何時まで経っても落ちないくらい練習をしていたから、だと思う。





断定を出来ないのは、努力している姿を見られるのが嫌いだって知っているから。決めつけられることも嫌いだった。物事をなあなあにするのも、中途半端も嫌いな人間だった。ずいぶんと生きづらそうな生き方だと、あの時は単純に思った。現に諍いも多かった。それでも正しいと思ったことには、堂々とした人間だった。限界など決めずに、まっすぐに生きられる人間だった。わたしはその堂々とした背中が、マウンドに登るのが好きだった。アイツと衝突した人間に、正しさを証明できる場所だったから。




でもその背中が、その背中に相応しい「1」を携えてマウンドに登ったのは、ただの1回きりだった。確かに縫い付けられたあの背番号が、やけにぼやけて見えたそのとき、それはすでにアイツのものではなくなっていたように思った。ああ、もうあの場所へ登ることはないのだな、と悟った。肘を押さえてうずくまったアイツが、噛み締めたであろう砂の味を思った。









あれから4年が経った、今のアイツの背中にはもう、正方形に浮かぶ「1」はなかった。背面の両脇、いくらか小さくなったゼッケンにいるのは「2」。あの日アイツの手からするりと抜け落ちた、エースが付ける番号ではない。そして今のアイツも、エースではない。ゼッケンは縫い止められていなかった。上端を2つ、安全ピンで留めただけ。一瞬で前を通り過ぎるアイツの背中に遅れてゼッケンがはためいた。あんなにも不安定なのに、縫い付けられていたあの番号よりもずっとアイツの背中を支えていて、あの頃よりもいくらか猫背になったはずの背中をあの頃よりもずっと、堂々と見せた。






ゼッケンナンバー
2


20141106


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