「あ、なまえ先輩」
「え、じゃああれ水野のねーちゃん?」



いつものように若菜としゃべりながら(コーチにばれたら怒られるんだけど!)アップを兼ねてグラウンド周りをランニングをしてると、なんだか見慣れた制服姿が近付いてきた。目を凝らして見ると、あれ?



「なまえせんぱーい?」
「あ、やっぱり藤代くんだ」
「えー、なんでいるんスか?」
「ちょっとあんまり大きい声出さないでよー……」


「どうかしたの?」


「あ、カントク」



バレちゃったじゃない、とでも言いたげな目線を先輩は向けてきた。いや、でも部外者は入っちゃダメじゃん、ここ。あれ?でも先輩、ってか姉弟って部外者になるのかな?わかんねぇや。



「……え、と。水野竜也の姉です。竜也がいつもお世話になっています」
「……もしかして」
「え?」
「なまえちゃん?」
「え、あ。はい!そうですけど……」
「小さい頃に一度だけ会ったわ、お父様と一緒の時」
「……覚えてます。あの時はどうもありがとうございました」



なんかカントクとなまえ先輩は知り合いだったらしい。そりゃ桐原カントクの娘だもんな、カントクだってきっとサッカーやらせたかったんだろうし、そしたら女子のトップクラスだった西園寺カントクの試合だって観に行ったんだろーな。取り込んでいるから、少し離れたところで若菜とひっそり見守る。



「今は、武蔵森に?」
「ええ、そうです。まあ、サッカーはしてないんですけどね」
「そうなの、残念だわ」
「……初めて試合を観させて頂いたとき、純粋にすごい、と思いました。エネルギッシュで、こんなにも人の心を揺さぶることが出来るんだ、って。でも、それと同時に、わたしが入っていい領域ではないな、と思ってしまったんです」
「……どうして?」
「確かに、わたしはサッカーを始めるには充分すぎる環境にいました。元選手の父親と、練習相手には充分すぎる弟。でもなんとなくですけれど、才能では上に上がれない、って思ったんです。竜也にはあるけれど、わたしにはなかった。コネを使えばある程度のチームにも入れたでしょうけど、それをした瞬間、わたしは多分、純粋な気持ちでサッカーと向き合えなくなるって」
「……」
「それなら外から、神聖なピッチを冒すことなく純粋な気持ちのままで、応援した方がいいじゃないって思っちゃったんです」
「よく、考えているのね」
「母から譲り受けたピアノの方が、人にお見せ出来るくらいのレベルになっているからこそ言えたことなんでしょうけれど」
「あなたみたいな人がいるだけで、なんだか安心するわ」
「そんな大それたことではないですよ」
「ううん、大事なことだわ。ありがとう」
「こちらこそ、期待してます」



 なんか穏やかな様子で話が進んでいるみたいで、先輩はこっちを見ながら何か話している。



「ところで、今日は?」
「あ!そうです、忘れてた!藤代くん!」
「え、俺ッスか?」
「そう!あのね、数学補習になってたでしょう、それ今度の火曜日に変更だって!」
「あー……了解ッス」
「それじゃあ!あとはたっちゃんに用事だから!」



 隣で若菜が笑ってるのがわかる、でもそれよりも、何よりも。カントクがこっちへ向けている視線が痛い。なんでそう言うことカントクの前で言っちゃうんスか、先輩。



「で、藤代くん。どういうことかしら?」
「……何がッスか?」
「今更しらばっくれても無駄よ。数学の補習って?」
「え〜……と、その。」
「何かしら?」
「すんません、赤点取りました」
「練習終わったら私のところへいらっしゃい、何なら翼と郭くんも呼ぼうかしら?」
「いや、いいッス!寮に帰ったら三上先輩に……!」






西

(先輩!なんでそーゆーことするんスか!)



20110808




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