『全国大会出場決定おめでとー』
「は?」
『そしてわたしは今どこにいるでしょーか?』



 都大会決勝、最早因縁めいた、と言ってもいいくらいの対戦カード。明星との対戦だった。何度試合をしてもコイツ等相手では気が抜けない。タイプの全く異なる2人のFWとそれを飼い慣らす司令塔。俺は選抜でのことをどうにか吹っ切って“自分の”プレーをした。他のメンバーも選抜に受かったヤツらに触発されたかのように、いつにも増して思い切ったプレーをして、因縁の相手を倒し、俺たちは優勝をした。


 そして今は全国大会に向けて校内での練習を終えたところだった。練習が終わった途端に携帯に電話が入ったと思ったら相手は桐原で、しかもバカでけぇ声で話してくる。それに気のせいだと思いたいけど、電話口だけでなく俺の後ろの方からも桐原の声が聞こえてくるような気がする。電話口からの声の方が遅れて聞こえてくるから、最早電話の意味がない。



『5ー!4!3、2、1!ぶっぶー!時間切れ!』
「学校で何してんだよ」
『え、何って?』
「つか後ろにいんのわかってんだよ、さっさと出てこい」


「ええ〜?気付いてた?」
「そりゃあんだけバカでかい声出されりゃな」



 そう言って電話を切ると、不服そうな声を上げて桐原が近付いてくる。心なしか夏休み前よりも日焼けをした気がする。元が白いからか、頬と鼻のてっぺんが他と比べて赤く浮いている。そもそも何で夏休みなのにコイツは学校にいるんだ。



「てかさ、あたしも応援行ったんだけど、めっちゃ日に焼けた!どうしよう!?」
「……どうもしねえよ、つか質問に答えろ」
「え?ああ。そんなのモチロンあれでしょうが、毎年恒例の」



 いや、毎休暇恒例かなー?なんて言って笑う。……わかった。何故コイツが夏休みなのにもかかわらず学校に来ているのか。でもこれ以上関わったらめんどくせえことになるに決まってる。だから一刻も早くここから逃げ出してえ。何を企んでいるのか桐原はニヤニヤと笑っている。なんでこういうときに限って来ねえんだよバカ代、空気ブチ壊しに来いよ。



「数学の補習!課題手伝って!」


 今なら男臭い部室でも構わないよ!なんて上から目線でモノを言いやがった。



「で、これで補習何回目だ?」
「それは数学だけの話?それとも全部含めて?」
「……もういい」



 何個補習に出てるんだ。というか中学にしてこれって大丈夫なのか。いくらエスカレーターのうちでも、高校入れんのか心配になってくる。カバンを漁って課題の入っているであろうクリアファイルやら、ペンケースを取り出している桐原を見る。



「……どこだよ?」
「え、」
「だからわかんねえとこどこだって聞いてんだよ」
「教えてくれるんだ」
「は?」
「いや、三上だったら場所だけ提供して放置ってパターンかと」



 お前の中で俺はどんだけ薄情な人間なんだ。と問いつめたくもなったが、そんなことをしている時間があるのなら、さっさとコイツの課題を終わらせてしまいたい。普通に説明したってコイツは理解が遅い、しかも最も苦手とする数学だ、どれだけ時間が掛かるのかなんてわかったモンじゃない。



「さっさとよこせって」
「きゃー、三上くん男前!」
「……いいから」



 つまんないー、なんてブツクサ言いながら、こっちにプリントとペンを差し出す。課題を解こうとペンを手に取って、違和感。いつもはキャラクターだののマスコットが付いた、書きにくいペンを寄越してくるのに、手渡されたペンはシルバーボディのこれと言った装飾のないペン。



「……いつものペンじゃねえのな」
「あー、だってヤダって言ったじゃん」
「は?」
「ジャラジャラして書きにくいって。だからそれ、三上専用」



 ……、確かにそんなことを言ったような気が、しないでもない。でも俺自身ですら忘れかけていたようなことを、桐原が覚えていた、と言うことがなんだか妙にくすぐったかった。桐原を見る。何事もなかったかのように、自分も課題に目を通し始めた。ページをめくるのは、白く、細い指。ピアノを弾くには少し小さな手。あれからまた、徐々にだがピアノのレッスンを受け始めたと、少し照れくさそうに報告を受けた。その手が、目に掛かった横髪を掻き上げる。


 なんだかこんな、曖昧な関係も悪くはないと思った。



―バンッ!!



「なまえ先輩!」
「あ、藤代くん」
「……藤代?」



 部室内にバカでかい音を立てて入ってきたのは藤代だった。練習のときに着ていたシャツとは違うシャツを着ているから、一旦寮にでも戻ったのだろうか。しかしなぜ戻ってきたのか。



「なまえ先輩、世界史の補習でしたよね!」
「え、ああ!」
「時間ッスよ!」
「ごめんねー、ありがとう!」



「……は?」



「えー?何」
「お前世界史も出来ねえのかよ……」
「うん、覚えている歴史上の人物はザビエルくらい」
「……、おい藤代。早くコイツ連れてけ」
「了解ッスー」
「え、何?ダメ?」



 俺が想像していた以上に、桐原は成績が悪いらしい。……それならさっさと言ってくれ!








(渋沢も呼んだっつーの)



20110807




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