なまえが事故に遭ったと、ヨンサから聞いたのはリーグ戦も終盤に差し掛かって、上位チームが優勝争いをしている最中、最終節も目前の第36節の前だった。いつもは時間や礼儀作法にうるさいヨンサからの電話は、夜中も真夜中の午前3時にかかってきた。珍しく焦ったような声で畳み掛けるように喋るヨンサに、珍しいな、と寝ぼけた頭で思っていたけど、なまえが車に轢かれた、と言う声はやけにはっきりと頭に焼き付いた。電話口のヨンサは、いつもの冷たすぎるくらいの冷静さを失っているのに、なんだか現実じゃないようで、僕の頭はいやに落ち着いていて、ヨンサの声が何重ものフィルターを通して聞こえるようだった。





 36節はどうも調子が上がらないままでスタメン出場は出来なかった。スペインの5月の天気は悪くて、前半も半ばを過ぎたくらいから雨が降り出した。後半から出場する頃には、土砂降りと言っていいほどの雨で、ボールはどんどん水を吸って重くなり、力を入れてボールを蹴るほど、ボールは芝生を切るように滑るようになった。ああ、なんて悪循環。



「っ……」



 一昨年怪我でやってしまった膝は、頼りなくじくじくと痛みをぶり返して、あまり言うことを聞いてくれなくなった。高い湿度のせいで古傷が痛む。試合中だというのに集中も切れて、怪我をしたときの記憶が鮮明によみがえってきた。



 今振り返ってみてもあの試合、あのタイミングで無理に突破を図ったことは間違いじゃなかったと思っている。試合内容は悪くないのに、勝ち点3になかなか手が届かなくて、チーム全体としてもサポーターの士気も下がっていた。スペインのサッカーにはスタイルがない、とはよく言われていて、観客を魅了するプレーが出来ればそれでいい、というスタンスではあるけれども、シーズン直前には優勝候補とまで言われて、持ち上げるだけ持ち上げられたチームに期待をしているサポーターは、この結果には当然納得しないだろう。ずるずると勝ち点3を取れないままの試合が続いて、あの状況を打破するには、個人突破で一発決めるしかなかったのだ。だからこそ2人付いていたマーカーを無理矢理抜き去って強引にドリブルをした。


 ペナルティエリア内でシュートモーションに入ったとき、左側からの黒い影に気付いた。だけど気付いたときにはもう遅かった。反則まがいのクリアーで、僕はとっさに足首を庇った。その反動で見事に吹き飛ばされた僕は、直感的に、ああ、膝をやられたな、と思った。もちろん僕を吹き飛ばしたDFは一発レッドで退場。PKも決めてチームは久しぶりの勝ち点3を手にした。でも、案の定僕は半月板を損傷し、チームからの離脱を余儀なくされた。



 手術を受けると決めたとき、真っ先に浮かんだのはなまえの顔だった。そしてこんな僕になんと声を掛けるのだろう、と考えた。でもきっとなまえは、困ったような顔をして、こんな僕に対して笑って「しょうがないなあ」と言うのだろう、と容易に想像が出来た。そうして連絡してみると、しばらくの空白の後に、やっぱり「しょうがないなあ」と笑うなまえがいた。


 術後の経過も悪くなかったけれど、手術で落ちた筋力を取り戻して、更に故障の少ない体になるためには、今まで以上に過酷なトレーニングが必要だった。世界を相手に戦っていくには、やっぱり簡単にDFに当たり負けするようではいけない。アジアの中ではフィジカルが強いと言われている韓国でも、世界に出てしまえばそれはもう通用しない。オランダの2m近いDFとでも対等に渡り合えるようなフィジカルが必要だった。



 一人黙々とトレーニングを続けていると、時々小さい頃の僕たちを思い出した。クラブチームの練習がなかったときは、いつでも決まってヨンサと小学校の校庭でサッカーをし続けた。勉強なんて関係なしに、時間も忘れて。そのときいつでも一緒にいてくれたのは、まだサッカーのルールもまるでわからなかったなまえだった。寒いから、危ないから先に帰りな、と言っても、大丈夫だからと言って聞かなかった。いつだって校庭の隅にあるタイヤや、公園のブランコに座って、足をぶらぶらさせていた。


 小さい頃はつまらなくないのか、と疑問ばかりが浮かんだ。当時からクラブチームに通っていたとは言え、まだまだ荒削りな子供のサッカー。しかもたくさんの人数がいるのならまだしも、僕とヨンサの二人だけ。でも年齢が上がるに連れて、だんだんとなまえの意図がわかったような気がした。それでも僕は何も言わなかった。このぬるま湯のような関係を少なからず心地よいと感じてしまっていたのもあるけれど、一番は、いつかは日本を離れるときが来る、と言うことだった。


 いつか僕は日本を離れるだろう。それは果たしていつになるのかわからない。韓国に帰るのかも、はたまた全く違う土地に行くのかすらわからなかった。それでも漠然とした目標として、世界最高峰のリーグでプレーをしてみたい、ということだけは明確だった。この錆び付いて、ネットが所々途切れたゴールなんかより、もっともっと大きくて、キレイで、そして世界最高峰のGKが守るゴールを見ていた。そしてそれは、僕が憧れている数々のスター選手が、DFやGKの守備をかいくぐってスーパーゴールを決めたゴールでもあった。



 そしてその数年後、僕は韓国に戻ることになった。ヨンサや結人、一馬、それになまえが見送りに来た空港でも、やっぱり僕は自分の本当の気持ちを伝えられなかった。今思えば本当に伝えるべきことだったのに、僕は逃げていただけだった。


 空港のゲートの向こう側には、目に涙を溜めてグッと堪えるなまえがいた。うつむき加減で、僕の靴の爪先をじっと見つめていた。その横にはみんながいて、これから僕がいなくなっても、なまえは誰かに支えられて生きていくんだろうな、と思った。いつだってヨンサの少しきつい物言いに、不用意に傷付いて泣き出したなまえを慰めて、泣きやませるのは僕の役目だった。でもこれからはそれも、僕以外の誰かがするようになるのだろう。そしていつかなまえは僕に恋をしていたことなんて忘れて、新しく誰かを好きになって、相手の一挙一動に喜んだり悲しんだりして、いつかきっとその恋を実らせるだろう。


 だからこそ、とうとう泣き出したなまえの涙を拭ってやることは、僕には出来なかった。


 韓国に戻ってからは、順風満帆とまではいかないにしても、それなりに充実したプレーを出来ていたと思う。ソウル選抜にも選ばれて、15の冬にはヨンサたちのいる東京選抜と親善試合もした。そのときに運良くスカウトの目に留まって、僕はめでたくプロ入りを果たした。プロ入り1年目は他チームへとレンタルに出されて、ヨーロッパでのやり方を学んだ。アジアのがつがつしたサッカーより、ヨーロッパのサッカーは国ごとにはっきりと色が分かれていて面白かった。なにより戦ったことのない元代表選手や憧れていたスター選手と同じピッチに立てた、ということで僕の気持ちは高揚していて、なまえのことを気にする余裕はなかった。



 それからは昔のことを振り返らずにここまで走ってきたように感じる。それでも時々ああやって、気持ちに余裕がないときに、なまえを思い出すのは、やっぱり何処かでなまえに関しての心残りがあるからだろうし、別れ際になまえが言った『どこに行っても応援しているから』という言葉が、気付かないうちに僕を強くしたんだと思う。


 そんななまえが事故に遭って、普通にプレーを続けることなんて、出来るはずがなかった。ヨンサに電話をもらって、なまえの携帯に連絡を入れると、なまえの脳天気そうな留守番メッセージが流れたきり、無機質な機械音を発するだけで、何の反応もなかった。いつもだったら仕事が終わって、部屋で思い思いのことをしてくつろいでいる時間。携帯を片手に、テレビを観たりして、着信があってすぐに電話に出て、「もしもし」よりも先に「どうしたの?」と言うはずなのに。




 集中も切れ、膝の痛みをぶり返した僕は、結局試合の途中で交代を余儀なくされて、その試合は1―2で負けてしまったが、次節はなんとかみんな持ちこたえて、2―1で勝つことが出来た。なまえは、僕の勝ち試合を見届けたかのように、37節が終わった直後に逝った。事故に遭ってから、一度も目を醒ますことはなかった。




 リーグ戦は結局、バルセロナの独走で、レアルや他のチームの追随を許さず、そのままリーグ優勝を決めた。シーズン序盤のスーパーカップでチャンピオンズリーグ王者のインテルを2―0で下し、ファンからの期待も厚かったが、チームの乱調に歯止めが効かず、僕たちはリーグ戦を7位で終えた。





 後日、なまえの実家に電話をすると、気丈に振る舞うなまえのお母さんが電話に出た。潤慶だと名乗ると、途端にお母さんは涙声に変わり、まず、こんな大変な時期にごめんなさい、と言った。本当になまえのお母さんらしいな、と思った。そして謝らなければいけないのは、僕の方なのに、とも思った。こんな辛いときに、そっちに行けなくてごめんなさい、と、なまえの側にいてあげられなくてごめんなさい、と言いたかった。でもそれを口にしたら、気丈に振る舞うお母さんの気持ちを無下にすると思って、言えなかった。


 お母さんは僕に気を使ってか、お葬式はもうしばらく後で、落ち着いたらしようと思っています、と告げた。もう少し、なまえの顔を見ていたいから、と少し泣いていた。




 チームの休止期間にはいると、僕は誰よりも早く日本に帰る手筈を整えた。チームの関係者も僕の事情を解ってか、「キャンプには戻って来いよ」とだけ声を掛けて、僕を送り出した。僕はスペインを離れる直前、なまえの携帯へと電話を入れた。現実を受け止め切れていない、ということではなくて、ただなまえの声を聴きたかった。電話が繋がるといつもと変わらない脳天気な声で、僕の中のなまえは決してぼやけたり、ぶれたり、変に美化されたりすることなく、なまえそのものだったと安心した。そして機械音の後に、短くメッセージを残した。



「もうすぐ、日本に帰るよ。長い間、ほったらかしてごめん。」





 日本に発つ飛行機の中で、僕は不思議な夢を見た。


 何処ともつかない空間の中に、僕ひとりだけがいる。僕がいるところはどうやら階段の踊り場のような所で、ここに辿り着くまで、果てしなく長い階段がずっと続いている。うねりや螺旋を目で追っていくうちに、その果ては闇に吸い込まれて消えた。階段はどうやら宙に浮いていて、ふわふわと浮いては沈む様をずっと見ているとだんだんと気持ちが悪くなった。その嫌な感じから抜け出したくて、なにか術はないかと考えていると、ふと目の前に古びた扉が現れた。光沢を失った、おそらく金色をしていたであろうドアノブに手をかけた、その瞬間。



「っユン!!」



 僕の背後から、確かになまえの声がした。振り向くと、あの螺旋階段から、なまえが上ってくるのが見えた。あんな風に必死に走っているなまえを僕は見たことがなかった、だからなんとなく、この扉から出て行くのはまだ早いと感じた。なまえが最後の段を上り切ると、なんだが靄のかかっていた周りがふわり、と明るくなった。息を切らして僕に駆け寄ってくる。体力のないなまえのことだから、息を整えるのに時間が掛かるのだろう、と考えると、なんだか少し笑えてきた。
「っ…ユン」



 なまえは小さく呟いて、僕のシャツの裾を本当に軽く、遠慮がちに握った。それはまるでなまえが死んでしまったということを僕に知らしめているようで、心臓が握り締められたように切なくなった。その感じに居たたまれなくなって、僕はなまえの目に掛かっていた髪を横に流し、なまえに触れることで気を紛らわそうとした。触れる髪の毛も、頬も、全部ぜんぶ同じなのに、くすぐったそうに笑うなまえの表情も、仕草も同じなのに、もうなまえはこの世にはいないなんて。


 でも果たして彼女は自分が死んでしまったということに気が付いているのだろうか。この無邪気な彼女の表情を見ていると、気付いていないのかもしれない、という一つの仮説が立った。そうだとしたら、彼女の魂はどうなってしまうのだろうか。気付かないまま、彷徨って、そんなのって、とてつもなく辛いじゃないか。


 彼女がもう、自分が誰だか解らなくなってしまうくらいに彷徨い、死んだことに気付かずにずっとこのままになってしまうのなら、そのケリを付けるのは、僕でいたいと思った。急な事故で、逝ってしまうその時に、一緒にいてあげられなかったから、せめてなまえは、僕が送ってあげたいとおもったから。だから、ある約束をなまえとすることにした。夢の中で、本当になまえに伝わるかどうかはわからないけれど。



「明日の夕方6時、あの場所で」



 そう言って、彼女の頭を軽く撫でた。彼女に触れると、名残惜しくなるって解っているのに、触れずにいられなかった自分を、少し笑って、ドアノブに手をかけた。もう、振り向かない。でないともう、戻って来られないと思ったから。





 夢から覚めると、なんだか思った以上に長い間眠っていたみたいで、しばらく経つともう着陸だった。日本に来たのは一昨年以来だ、去年は韓国に帰ったし、あっちに戻ってからなまえが遊びに来たから、久しぶりの日本だけれど、気持ちの高揚はまるでなかった。それもそうか、と思って、タクシーを拾って行き先を告げた。


 久しぶりに降り立った雑司ヶ谷の街並みは、以前とまるで変わることなく、あそこだけがまるで東京から切り離されて独立しているかのようだった。嫌なことはそりゃあ多かれ少なかれあったけれど、それでもここで彼女と出会い、ヨンサたちとサッカーをした思い出の場所。そして今の目標を見つける場所にもなった。そんな街を懐かしむように見て回る。そして最後に、なまえの実家に辿り着いた。


 なまえの両親に軽く挨拶を告げ、式には出られると伝えた。お母さんは泣き腫らした赤い目をしていて、お父さんもいくらかやつれて見えた。お父さんは通夜までまだ時間もあるから、思い出の場所でも回ってきてはどうか、と提案してくれた。僕はそれをありがたく受け入れ、なまえとの約束の場所へと行くことにした。



 さっき粗方見て回ったから、もう殆ど回るところはなかったが、ゆっくりと、自分の足で歩いてあの場所に行きたいと思った。薄紫のベールを空に垂れ込めて、到着したときより確実に暗くなっていったが、まだ季節は初夏で、冬に比べたらどうってことのない、ある種の心地の良い暗さだった。通っていた小学校のグラウンドも、3人で通った小径も、すべてが変わらずそのままなのに、目線が変わっただけで、こんなにも景色が変わるのか、と少し切なくなった。ゆっくり、ゆっくり、勿体ぶるように歩く。少しでも多くの時間を、思い出の中で過ごしたかった。



 目的の公園にたどり着く。なまえはいるのか、それともいないのか。あれはただの夢だったのか、そうでないのか。僕にはよくわからないけれど、信じてみるしかないと思った。僕自身を、なまえを。


 砂利を踏みしめる音が静かな公園に響く。時刻は約束の6時丁度。いつも座って、足をぶらつかせていたブランコに、なまえは確かにいた。



「なまえ」



 俯いていたなまえは、僕の声に気付くとゆっくりと顔を上げた。少し、淋しそうな、泣きそうな顔だった。



「痩せた、ね」
「っ……なまえ」



 ああ、彼女は何も気付いていないのか。自分が死んでしまったことも、自分の母がどれだけ嘆いたのか、父がどれだけ思い悩んだのか。そして、僕がどれだけ後悔したのかも、何もかもに気付いていないのか。どうして側にいてあげられなかったのか、どうして守ってあげられなかったのか、なんでもっと早く思いを伝えなかったのか、スペインに連れて行ってしまったら、何度も思い、その度に涙した僕に、彼女は何も気付かない。



「いつこっちに来たの?リーグ戦は?まだやっているでしょう」
「なまえ」
「そうだ、この前ね。ユンのユニフォーム着た小さい子を見たよ、」
「……なまえ!」



 そうやって無邪気に笑う彼女を見ているのがあまりに辛すぎて、何度もなまえの名前を呼ぶけれど、彼女は笑って、思い出したかのように僕に話す。そうだよ、そのユニフォームを着た子を、君は。



「……リーグ戦は終わったよ。優勝は、出来なかった」
「?……でも、わたし、」
「もう……大丈夫だから」
「……ユン?」
「もう、僕は大丈夫だから」
「……」



 本当のことを告げるというのは、辛いものだ。それでも、せめて、僕の手で逝かせてあげたいと思うのは、ただの僕のエゴなのだろうか。



「だからもう、逝っていいんだよ」



 するとまた、寂しそうに、泣きそうに彼女は笑った。ああ、よかった。彼女は自分がどうなったのか、解っていないわけじゃなかった。解っていたけれど彼女は、僕を待っていてくれただけだった。



「……ユンのユニフォーム、着ていたの」
「うん」
「自分の顔よりずっと大きい、ボールを追いかけてね」
「……うん」
「あの頃のユンにそっくりだったの」


「わたしと英士と、3人でいた頃の、ひたすらボールを追いかけるユンに」


「……っ、うん」



 知らず知らずのうちに嗚咽が漏れる。こんな風に泣いたのはいつ以来だろう。彼女が死んでしまった、と聞いたときも実感が沸かず、その時から溜め込んでいたすべてが開放されたかのように、涙が止まらない。俯きそうになる身体を堪えて、なまえを見る。彼女の瞳は、強かった。



「守りたかったの、大好きだったから。わたしが大好きだったユンが大好きだった、大切にしていたモノを守りたかったの。ユンを大好きでいてくれるモノを守りたかったの」



 後悔も、ない。ただひたすらに僕を思ってくれたが為の行為。



「そっかぁ……、やっぱりダメだったかぁ」
「2週間くらい、頑張ってたんだけど」
「仕方ないね、長期戦は昔から苦手だったし」
「……」
「テスト勉強も何も、長い間してられなかったし」



 そう言って笑った彼女は、少し無理をしているようで、泣きそうな何とも言えない表情だった。でも、今それを口に出してしまうほど、僕は無粋ではないし、何より彼女が笑って逝ってくれるのであれば、それは本望だったから。



「ねぇ、わたし上手く、笑えてる?」
「……うん」
「そ、よかった」



 心なしか、なまえの表情が晴れやかになったとき、なんだか彼女が消えてしまうような予感がした。手足がだんだん靄のように薄く、あたりに広がって、消えていく。ああ、もう、時間だ。



「いつか、」
「ん?」
「いつか世界最高の舞台に立ったとき、」
「うん」
「わたしの命を賭けて助けた、あの子を必ず招待して」
「……もちろん」
「……それまでユンのファンでいてくれたらだけど」
「……そうだね」



 そんなの、当たり前だろう?なまえが命を懸けて守った、大事な僕のファンの少年。もうなまえには観てもらえないだろうけれど、だから代わりに観てもらおう、僕がいつか、世界最高峰のピッチで、あの輝くトロフィーを掲げあげるのを。



「なまえ」
「ん?」



 触れられるのかは、わからなかった。一か八かの最期のキスは僕の涙に濡れてしょっぱかったけれど、熱くて、華奢ななまえを肌で感じることが出来た。最期にまた、サラリと髪を撫でると、なまえは泣きながら笑って、空へと消えた。



 今は僕の首元で、いつでもなまえが見守っている。小さな、輝く宝石になって。






(そうしたら、世界の頂点を教えてあげる)



20110801




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