「そろそろ、行くね。本も見つかったし」
「あ、先輩……!」



 そう言って席を立つ先輩を、見送るだけは嫌だったから、思わず引き留めてしまった。突然大きな声を出した俺に驚いたのか、先輩は不思議そうな顔をしてこっちを見上げた。



「もう、遅いですし、校門まで送ります」
「大げさだよ、子供じゃないんだから」



 ここで引き下がってしまったら、なんだかもう、二度と先輩に会えないような気がした。実際会えない期間は夏休み中だけなのに、夏休みが明けても、もう深くは関われないような、そんな気がして、どうしても今、言うべきだと思った。



「俺の、気が済まないんで」



 そう、強く言った。



「じゃあ、お願いしようかな」



 するといつになく強い主張をするのが珍しかったのか、少し困ったように笑いながら先輩は頷いた。学生カバンが、か細い肩に食い込んだ。重たそうなカバン、さっきちらりと窺い見たら、カバンの中には参考書や予備校のテキスト、自分で作った単語帳やノートが溢れかえっていた。こんなにも小さな体で、先輩はあまりにたくさんのモノを背負いすぎている。優等生である、というプレッシャーを、何度か自分も感じたことがある。俺に関してはサッカーは好きでやっているものだし、勉強もそこまで根詰めてやっている訳ではないから、先輩のプレッシャーの比ではないだろうが。





 校門近くに差し掛かったとき、先輩は思い出したかのようにこう言った。



「そう言えば、渋沢くん。今日、お誕生日だよね」
「……知ってたんですか」
「そりゃあ、大事な後輩ですから。ああー……なんもあげられるものないや」



 カバンを漁ったり、ポケットをしきりに探る先輩は、いつもよりずっと幼く見えた、だけど、その後の言葉が突き刺さる。


 大事な後輩


 いつだって先輩の中では、俺は後輩、というポジションで落ち着いて、それから抜け出したいと思っていたのに、ずっと行動を起こさないまま、ここまでずるずると、不服なポジションに居続けた。それでもいいと、思っていられたのは先輩と一緒にいられる時間があったから。でも今は違う。生徒会を引退して、受験生になった先輩とは、もう今まで通りではいられない。


 だから、



「先輩、」
「んー、何?」
「誕生日、プレゼントはいらないです」
「え?」



「だから、もしよかったら、8月の試合、観に来てください」


 そうしたら、



「伝えたいことが、あるので」





(きっと明日も大好きです)
(そう伝えられたら)




20110731




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