朝練を終えて教室に着くと、いつもは遅刻ギリギリに登校するハズの桐原がもう既に席に着いて寝ていた。いや、正しくは寝たフリをしていた。昨日の今日だ、俺が立ち聞きしていたことに気付いてねぇにしても、気まずくて顔を合わせ辛いに決まってる。俺自身も若干気まずく感じていて、正直言うと桐原が寝たフリをしていてよかったと思っている。



「……、」
「……。」



 結局桐原は午前の授業をぶっ通しで寝たフリをし続けた。数学や物理はもちろんのこと、得意の現代文すらも寝ているから、珍しく教師が心配して声をかけても、生返事をするだけだった。このまま昼休みまでも寝たフリを続けるのではないかと思ったし、そもそも桐原は俺が立ち聞きしていたことを知らないはずなのだから、何も話しかけないのは逆に不自然じゃねぇか、と思って声をかけてみた。



「おい」
「……」
「もう昼だぞ」
「…うん」



 2度目の呼びかけにやっと反応して、桐原はゆっくりと上体を起こした。たったの半日、寝たフリをしていただけなのに、やけに長い間、顔を見ていなかったかのような錯覚に陥った。上体を起こしてからも、桐原の動作はやけに緩慢で、もしかしたら本当に寝ていたのかもしれない。



「メシは?」
「んー、いいや」
「は?」
「どうせ何もないし、寝てただけだしお腹空いてない」
「弁当、ねぇのかよ」
「んー、家帰ってないから」
「……は?」



 家帰ってないってどういうことだよ。……つまりはあの後監督と顔を合わせてないっつーことだ。桐原はそれほどまでに怒っていたのか。



「友達のところ行ってたから」
「……そうか」



 なんとなく嘘を吐いているのはわかったけど、触れないことにした。それに触れたら、何かが崩れるような気がした。それは俺の中の何かでもあり、桐原の中の何かでもあり、俺たち二人の何かでもあるような気がした。








(ギリギリに保たれた均衡)



:)20110205




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