「あつぅーい」
「……」
「あつい!ジメジメするっ!!」
「うるせぇっつの!」
「うぇ、三上ヒドい!」



 きっと渋沢くんならー、なんてワケのわからねぇことをぬかしてるこの女は、一応俺たちの監督、桐原総一郎の実の娘だ。コネで入学したのかと疑うほど、数学が出来ない。たった今、物理分野も出来ないことが判明したが。そりゃ数学出来なきゃ物理だって出来ねぇだろうに、物理を選択したのはカエルなんて触れない、というなんとも馬鹿らしい理由だった(触れねぇならその授業だけ休めよ)。



「つか早くやれよ」
「ぶー、物理ムリっ!」
「…あのな、」
「あ、わんこ」
「おい!」
「ほら、あそこ!……こっち来てるね」



 指先の延長上を見れば、こっちに向かって来るのは藤代。…わんこって、わからなくもねぇけどよ。



「なまえ先輩!」
「わぁー、藤代くん元気だねぇ!」



 バカ代、俺には挨拶ナシか。あとでシメる。ブンブン手を降る藤代は、桐原にだけ挨拶をしている。千切れんばかりに尻尾を振る犬が、容易に想像出来た。



「あ!三上先輩!」
「あ?」



 さも今気付いたかのような口振り。やっぱりあとで部室裏だな。



「さっきキャプテンが探してたッスよ!」
「何処でだよ」
「あー、たぶん購買の近くッス」
「おぅ、」
「俺それ言いに来たんで、なまえ先輩またねー!」



 ……仕方ねぇ、桐原の課題は未だ終わる気配すら感じられねぇから、先に渋沢の方行ってくるか。どうせ明日のメニューの話だろう、明日も雨が降るのだろうか。この時期雨が降らない方が珍しいか。


 横向きに座っていた椅子を立ち上がる。ガタリ、自分で思っていたよりも大きな音がした。その音に驚いたのか、桐原はぴくりと肩を震わせて、俺を見上げてきた。



「ちょっと渋沢んトコ行ってくる」



 さっき購買んトコっつってたよな、だったら今何処だよ。つかなんで藤代が俺を見つけられんのに渋沢来ねぇんだよ。……犬だからか、藤代が。



――クンっ



 シャツの裾を引っ張られて、動きが止まる。いや、止めざるを得なかった。俺とは違って日焼けを知らない真っ白な指が視界に入る。引っ張ったのはもちろん――桐原。



「戻ってきて、ね?」



 こいつは狙ってやってるのか、そうじゃないとしたら誰にでもこうしているのか。そう思うと内心ムカついている。そんな自分がいることを認めたくないから、桐原の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でて教室を出た。



「(なんであんな顔してんだよ、)」








(「あれで何もないなんて」)(某クラスメイトの呟き)



:)20110111



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