今日は珍しく練習がオフ。グラウンド整備が入るとかなんとかで……まあ、詳しくは忘れた。だと言うのに備品の買い出しの手伝いを命じられて、俺のオフは半日犠牲となった。でもそれが嫌じゃないと思うのは、備品の買い出し、という名のなまえとのデートだからだ。
 マネージャーのなまえと付き合っていることは、誰にも言っていない。俺は別に言ってもいいと思ってるけど、なまえが頑なに、「部活とそういうのはちゃんと分けたい」と言って聞かないからだ。だから部活、っつーか学校内ではお互いに「真田くん」「みょうじ」なんて呼び合っている。その関係がどうにももどかしいと感じているこのタイミングで、久しぶりのデート。気分も上がるというわけだ。
 向かった先は近所の大型スポーツショップ。ここに来ればだいたい何でも揃う。でもウチは部費もそんなにあるわけじゃないから、なまえはいつも一人でいろいろな店を駆け回っては、カツカツの部費でもやりくりをしてくれる優秀なマネージャーだ。この店の隣にドラッグストアもあるから、今日もきっとはしごをして回るのだろう。

「テーピングとスポドリの粉とアミノ酸、氷嚢も古くなってたから変えたいし……部員も増えたからジャグも増やしたい……あ、ロージンは俊平が選んだ方がいいね」
「あとグリップテープも見たいから、俺ロージンとグリップ探すわ。終わったら合流する」
「ありがとう、助かる」

 ……久しぶりのデートだと言うのに、この優秀なマネージャーは分業制を申し出る。この顔のときは、もう部活モードと変わらねえから、素直に受け入れるしかない。確かにプレーに関わるものは、選手である俺が選んだ方が効率的だ。一人寂しく商品が立ち並ぶ店内を回り、言われたものを探してはカゴに入れる。

「あれ? 真田くん!」
「おー」

 バレー部の……誰だっけ。名前が思い出せない。女子たち。そいつらも備品の買い出しに来ていたようで、あっという間に取り囲まれる。自分で言うのもなんだけど、まあ、それなりに人気はある方だと思う。センバツが終わってからは、呼び出しの回数も増えたし。なまえと付き合っていることは言っていないし、尚更。それとなく会話を聞き流すように、時折相づちを打って対応する。そんなことより俺は早くなまえと合流したい。

「俊……、真田くん」
「どした?」

 棚の影からなまえが顔を出す。少しむくれたような顔をして。「みょうじさんも一緒だったんだー」女子たちの声が聞こえて、なまえもすぐいつもの顔に戻った。「ウチの選手たちに買い出しさせるとすぐ領収書なくすからさあ」なんて笑ってみせるけど、その心の内側では、なあ、何を思ってる?

「で、何?」
「あ、そうだ……。爪の補強剤安くなってたんだけどまだあったっけ?」
「もうすぐなくなるかもしんねえ、見に行くか」

 この場を離れる都合の良い口実が飛び込んできてくれて、ラッキー、とばかりに話に乗る。「じゃ、またな」と言えばこれ以上は引き止められまい。女子たちも素直に「またね」と手を振ってくる。

「……」
「何?」
「……何の話してたの?」

 不安げな顔で俺を見上げるなまえ。身長差がけっこうあるから、自然と上目遣いになる。しばらく俺が答えずにいると、耐えきれなくなったのかふいと視線をそらす。「別に、ただの世間話」お互いの試合の結果とか、と返すと、明らかに安心したような顔。「そっか……」と小さく漏らしてカートを引くなまえ。いやいや、可愛すぎんだろ。
 思わぬデレ期にやられながらも、備品の買い出しを進めていく。どうやら俺が道草を食っている間に、隣のドラッグストアまで既に見に行っていたようで、「向こうのほうが安かったから」なんて笑ってみせる。負担を減らすために来たくせに、何やってんだか俺は。スポーツショップで買った備品は、全て学校に発送するように手配して(送料無料になってて喜んでいた、可愛い)、ドラッグストアで買ったスポドリの粉だけを持って店を出る。
 するとまた、出口近くでバレー部のやつらを見かけた。向こうが手を振ってきたから流石に無視は悪いと思って軽く手を挙げる。それだけで向こうは大盛り上がりで、なんつーか、モテすぎるのも考えものだな、なんて思っていた。すると。

「……また見てる」
「知り合いいたら見るくらいするだろ」

 拗ねたような、子供みたいな顔。ついさっきまでの敏腕マネージャーの顔とは違って、等身大のなまえの顔。伏し目がちになった睫毛は、頬に影を落としているけれど、その頬はしっかり紅くなっていて。自覚しているのだ、自分が妬いていることを。そしてそんな自分を恥ずかしがっている。学校生活では常にもどかしい関係で、それなのにこんなあからさまな独占欲を出されるなんて。正直、かなり、クる。
 重そうなビニール袋を手からさらって、代わりになまえの左手を繋いだ。深く絡めとるように指を組んで、きつくきつく解けないように握った。焦ったような顔のなまえが「見られちゃうって!」と困ったように言うけれど、正直見せつけてやりたい。あいつらだけじゃなくて、学校中の奴らに。

「俺としては」
「?」
「みんなに可愛いカノジョ、自慢したいんだけど」

 ほらまた、その顔。その顔が見たくて、ついついやっちまうんだよな。火が付いたみたいに赤く火照った顔。何を言っていいのかわからずに閉口するその唇が可愛くて、思わずひとつ、キスを落とした。




致死量のI LOVE YOU




「ば、ばか……!」
「でも嫌じゃないんだろ?」
「それは……そう、だけど……」
「あーもう、可愛すぎ」



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20200531




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