「っあー……」



 マジ無理。集中続かない。そりゃサッカーしてるときは集中力ハンパないって言われてるけどさぁー、やっぱりそれは好きだからこそ。こんな昔っから大っキライな勉強を、しかもよりによって数学の補習なんか頑張れるはずがない。つかプリント渡されて、やっとけって何?補習ってそんなラフで良いの?それなら休みの日に呼ぶなよ、放課後とかでイイじゃん。


 そもそも昔っから「やらされる」ってのが大っキライで、親にやらされた部屋の片づけも続かない。1日15分でOKみたいな通信教育もすぐやらなくなって結局やめた。母ちゃんは最初のうちは金を捨てるような真似して、とか言ってたけど、俺の性格をわかってかそのうち何も言わなくなった。


 でも、自分から「やっている」サッカーだけは、唯一俺が集中して出来るモノで、コレに関しては一切妥協はしたくなかったし、してこなかった(つもりだ)。だからキビシいとはわかっていたけれど、サッカー部全寮制で文武両道の武蔵森に入ったし、全国屈指のセンパイたちからポジションを奪うためにする練習も全く苦じゃなかった。

 だから、鉛筆握らされて、椅子に座らされて、無理矢理やらされる勉強は好きになれない。


「せぇっかく晴れたのになぁー」



 窓の外を見渡すと、目に痛いくらいの青。超サッカー日和、まぁ俺はいつでもどんな天気でもベストコンディションだけどね。



「ちぇっ」



 いつも自分がいる場所なのに、教室の窓から見るとやけに遠くに感じる。ああ、ダメだ。早くサッカーしてぇなあ。



「藤代くん?」



 開いた窓の外から聞こえてきたのは、俺が大好きで大好きでしょうがない、なまえちゃんの鈴が鳴るようなソプラノの声。



「なまえちゃん!」
「どうしたの、部活は?」



 なまえちゃんは窓の外から控えめに教室をのぞき込んで、先生がいないことを確認すると俺に声をかけた。



「あー……、数学の補習」
「ああ、そっか。大変だね」



 クスリと笑うと、周りをキョロキョロ見渡して、「ないしょだよ」と口元に人差し指を添えて言った。ああ、そんなちょっとした動作ですら可愛くてしょうがない。と思ったら、なまえちゃんは窓を乗り越えて教室に入ってきた。



「えぇ!」
「ちょっ!藤代くん声大きい!」
「だって!え?そういうカンジなの?」
「もー、みんなおしとやかそうとか言うけど、そんなことないよ!」



 へぇ、意外。だってなまえちゃんは吹奏楽部に入ってて、いかにも小さい頃から音楽やってますってカンジの、いわゆる文化系女子?ってやつで、この前の体育なんかハードルに引っかかって転んでた。



「課題ははかどってるー?」
「ぜぇーんぜん!」
「あは!だろうと思った!」
「思ったって!シツレーな!」



 って口にはしたけれど、なまえちゃんがあんまり楽しそうに笑うから、実はそんなに怒ってない(これが若菜とかだったらたぶんマジ切れする自信ある、だってアイツは俺より頭悪いから)。



「そんな藤代くんに、」
「ん?」
「差し入れー、プリッツ!」
「えっ、マジで?」
「どうぞ、頑張ってね」



 そう言ってなまえちゃんはヒラリ、また窓の外へ戻っていった。部活中だったんだろうな、うちの学校の吹奏楽部も、なかなかキビシい練習で有名だから。たぶん外周走ってたんだろうなぁ、抜け出して大丈夫だったんだろうか。



「あーあ、俺も早く部活行きてぇー」



――カサリ



「ん?」



 差し入れ、と貰ったプリッツの外箱。裏側には少し大きめの付箋が貼ってあった。付箋を剥がして見てみると、流れるようにキレイな字、なまえちゃんが書く字そのものだった。



「”補習、頑張ってね。早くサッカーしてるところ、見せてください”……」




 うちの学校の音楽室は、グラウンドを一望出来る場所にある。そこを部活で使っている吹奏楽部からしたら、サッカー部専用グラウンドもよく見えるんだろう。いつも見られていたと思うとなんだかちょっと気恥ずかしかった。照れを隠すようにイスの背もたれを使って後ろへ思いっきり仰け反った。俺一人の教室で、隠す必要もないのに。



「……ん?」



 手に持ったままの付箋は、俺が仰け反ったことによって裏側が透けて見えた。何か書いてあるようにも見えたそれを裏返してみる。



「……」



 思わず口角が上がる。最初のうちはそうでもなかったけど、だんだんと隠しきれない程になってきて、手の甲で口元を押さえた。顔が熱いような気がするけど、そうだ、これはきっと今日、突然気温が上がったからだ。



「っしゃあ!」



 これって、期待してもいいんですか?









”夏になったら、
どこか行きませんか?
もちろん、
補習がなければ”




:)20110519




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