「純、荷物届いてたよ」
「おう、サンキュー」

 実家の姉貴からという郵便物を亮介が持ってきた。夕食後の食堂は試合のビデオを見ているヤツら、雑談をしているヤツら、思い思いに時間を過ごしている。だというのに亮介はわざわざ俺の向かいに座って、どうやら郵便物の開封を待っているようだった。仕方なくこの場で開けると、中に入っていたのは新聞と手紙と、……チアの雑誌?

「『Cheer Up!』……ってチアの? 純、そんなシュミもあったんだ」
「ちげえよ!」

 俺の大声になんだなんだと部員が集まってくる。大声はいつものことだろうが! と思いながら散らすがそうやすやすと散っちゃくれねえのがクセの強いレギュラー陣たち。

「純さんこんなん読むんスか。ヒャハハッ」

 倉持あとで殺す。観念して雑誌を手に取ると、どうやら結夏が出ているらしいことが表紙からわかった。添えられた手紙、『結夏ちゃん大活躍だってよ!』なんて書かれている。ため息を吐きながら続ける。

「……幼馴染が載ってんだよ、多分。姉貴がおせっかいで送ってきやがった」
「へー、純さん女の幼馴染いたんですね。少女漫画地で行くじゃないですか」

 御幸テメェもあとで殺す。手に取っただけで読まずにいると、横から哲が「読まないのか」と茶々を入れてくる……いや、哲の場合はからかうつもりなんてなく本当にそう思っているんだろう。この衆人環視の中でこんな雑誌を読むわけには……いかねえ……けど、亮介の視線が痛い。読みなよ、と目線で言っている。クソッ。

「見りゃいいんだろ……」

 表紙には『チアリーディングの最新情報を日本一早くお届け!』なんて煽り文句が躍っている。普段読んでいる野球雑誌と違って、ずいぶんとポップな印象だ(……少女漫画だって同じだろとか言うな!)。ページをめくると巻頭特集として高校総体の最新結果が載っているらしい。結夏が所属する稲実はどうやら都総体で優勝したようで、インタビューまで掲載されている。大きな煽りが付いた見開きページに、高くリフトされた結夏が写っている。


――『不死鳥の復活なるか、キーパーソンは菅原』昨年度の全日本高等学校選手権大会直前、12月のUSAジャパン東京大会にて不運のスタンツ落下事故。鎖骨骨折などの怪我で二ヶ月の戦線離脱を余儀なくされた菅原だが、ブランクを感じさせない演技で会場全体を魅了。絶対エースの復活で、王座へ返り咲くか。――


 ……こんな大怪我をしてたなんて、聞いてねえ。少し動揺しながら読み進めると、すでに怪我は完治して普通に演技ができていることが読み取れて少し安心する。あの泣き虫の結夏が、こんな怪我をひとり乗り越えたのかと思うと、もう俺の知っている結夏ではないように感じた。……いや、もうひとりじゃないのか。俺の後ろをついて回ることしかできなかったあの頃の結夏じゃねえんだ。俺が青道というチームで仲間を見つけたように、結夏にだって頼れるチームメイトが出来たのだと思うと、胸に穴が開いたような気持ちになった。……なんだこれ。

「で、どの子なの? 幼馴染」
「……コイツ」

 亮介に急かされ、仕方なく指差す。一番高い位置でポーズを決める結夏だ。後ろのページにインタビューがあり、大きい写真が載っていることはわかっていたが、せめてもの抵抗で集合した小さな写真を指差した。「ふうん、かわいいじゃん」亮介の声。なんとなく苛つくのは何故だろう。そんなこと、本当はわかりきっているのに、今は、気付かないフリをしたかった。

「てか、このチーム稲実じゃないすか!」

 稲実との練習試合も迫っているからか、集まっていたヤツらが過剰に反応する。……だから嫌だったんだ、コイツらに話すのは。でもしばらくすると、話題は稲実との練習試合の話に移っていて、ようやく息をつく。……いいから哲はそのオーラしまえ。向かいに座った亮介だけが、じっと雑誌を見つめている。この間から亮介が絡むと良いことがねえ。


「なるほど。離れ離れの幼馴染、ってわけね」


 亮介の声が耳から離れない。そんなんじゃねえ。少女漫画みたいに、人生はうまくは行かないもんだ。



気付かないフリをして


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