「ねぇ、抜け出してみようよ。」


不意に声をかけられた。


「…君は誰?」


女の子だった。同い年くらいの女の子。


「抜け出してみようよ。この世界から。」


彼女は俺の手を取った。
その手は冷たいとも、暖かいとも感じない。


「こっちにおいでよ。」


その声色は幼子を宥めるようなのに、瞳は嘲りの色に満ちていた。
俺はその手を思わず振り払った。


「……………これは夢。でも次は現実。」


気がつくと教室の机でうたた寝をしていたらしく、クラスは休み時間で騒がしかった。
だが、その騒ぎかたがいつもと違う事に気が付いた。
その中心には彼女がいた。大人しいクラスメイトで、さっき夢にいた彼女が一人いた。
俺に気づくと緩く笑って、無声音で言った。


「お先に。」



愚かな正義の名の下に、
跪いたのは俺か君か



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