在り来たりだよね、なんて笑っていた。あの頃の私はどこに行ったんだ。
帰ってこいよ、戻ってこいよ。他人に心配かけるなんて私の最期らしくないじゃないか。最後と最期は履き違えちゃいけないライン。そんなのとっくに分かってる、解ってるから。判ってるんだって。
どうやら私の体は、他人よりはるかに弱く構築されているらしかった。運が悪かったのは、自我が芽生えてきちんと物事の理解が出来るようになって、友情を育み、恋を知ってからそれに気づかされた事だった。
医者は言う。原因不明の病に侵されている私の推定寿命は、今日までだと。
つまり、私の人生という舞台は他人の幕間のような短さで、なおかつ世間一般で悲劇に分類される種類で幕を閉じるらしい。カーテンコールなんて知ったこっちゃない。
宣告を受けた時に、ドラマや携帯小説に良く出てくるエンディングなんだろうな、とぼんやり考えていた。だってそうじゃないか。家族や愛する人をこの世に残して、一人だけ若くしてその人生に終止符を打つなんて。周囲の人間がどれほど死後の自分に憐みの情を掛けてくるのかが生前の今でも何となく想像できた。
そう、ドラマみたいな終わり方。観客の涙を誘うような終焉。
だから私は、それに出てくる主人公の様に、強く、淑やかに、柔らかく、笑って終わりを迎えなければいけない。
人生に悔いはないか、と言われれば頭を縦には振れない。でもあるかと聞かれてしまえば首を捻るだけだろう。所詮私の生きた道とはそんな程度だったのだ。淡白と言われても仕方がない。抗えないんだから。
そう頭では、解っている筈だった。


「ね、謙也……なんで来ちゃったの?」
「それは、俺とお前の仲やからな」


私の枕元でじっと私を見つめている、私が恋した最初で最後の人、謙也。どうせ死ぬのだから、と酸素マスクは今外してもらっている。近くに置いてある心拍数の音がやけに耳に響いた。
愛する人も今日でお別れ。いつも通りを心掛けて、口を何度か開閉してから息を吹き込む。


「縛られちゃいけないって分かってる?」
「頭で分かってても、実際自分に縛られるっちゅー話や。大好きなんやから」


謙也の回答に心のどこかで安堵していた。実際の所どうかは分からない、もう関係ないけど自分の前ではそうやって言ってくれる、その優しさに無理やり笑顔を作ろうとする。
瞬間、息が苦しくなった。心拍数が急激に低下する。どうやら私に残された時間はもう数えるほどしかないらしかった。謙也が咄嗟にナースコールを押してくれる。多分、もう、遅い。
最期は笑わなきゃ。そう思ったのに、今笑おうとしても何故か筋肉が動いてくれなかった。
なんで、どうして。笑わないと、彼は安心してくれない。私の最期をもっと穏やかに看取ってほしいのに。


「ね、謙也……けん、やっ……!」


拙くなっていく呼吸で必死に彼の名前を呼ぶ。いつもは泣き虫だった謙也は、今日も変わらず必死に私に縋り付いてくるようで泣きそうだった。角張ってテニスだこが多くなった手が私の頭を撫でる。
謙也にそんな表情は似合わないのに。私の口は案外素直に動いていた。


「最後は……最期は、謙也の、笑った、顔が、見たい、な」
「……おん……!」


謙也が笑う。涙がぼろぼろ零れ落ちているその表情で、私の為に一生懸命笑顔を作ろうとしてくれている。つられて私も笑おうとすると、視界が歪んだ。
歪ませた原因は頬を伝って口に入る。しょっぱかった。だからなのか、笑顔が作れない。謙也の泣き笑いはちゃんとこの目で捉えているのに。
――なんだ、私、まだ。


「死にたく、な、か……――」


息が出来ない。謙也が私の名前を連呼する。息が出来ない。謙也の方を見る。

最期に笑ったのは君だった。
(本当に笑うのは私の筈だったのに)








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