「たとえばね」
ちょっとしたことなの。誰かと話してる瞬間とか、そう、ふとした瞬間とかに、急に自分が許せなくなってね。頭に思い描いた理想の自分と現実の自分がかけ離れていってる気がして許せなくなってね。
ああ自分は最低だ、ってそう思ったら止まらなくなって、どうしようもなく死にたくなるの。だから、さ。
私を殺してよ。仁王。
がやがやと騒がしい教室の片隅で、やけにはっきりとその言葉は耳に届いた。それが単なる、所謂死にたがりのものなのか、切羽詰まった挙句の吐露なのかは分からない。
なあ、と名前を呼ぶ。
「なに」
「こっち向きんしゃい」
顔を上げた彼女と視線がぶつかった。乾いた目がこちらをぼんやりと見ていた。
また泣けなかったのか。泣きたいのに涙が出ない。いつだったかのその言葉は本当だったのか。ああどうして、こんなことになっているんだろう。
「ねえ、仁王
私のお願いきいてくれるでしょう
ねえ」
念を押すような言葉に、一瞥をくれて頷いてみせた。彼女の顔はもうよく見えない。そのまま、けど、と言葉を続ける。
「俺は詐欺師じゃからのう、気が向いたら考えるぜよ」
もう一度、彼女と視線を交える。
そしてすぐにそらした。辛うじて残っている冷静さがなくなりそうでいたたまれなかった。
彼女は知らない。
自分の発する言葉やふとした瞬間の表情や仕草が、どれほど俺に対して影響力を持っているのかを。
彼女の一挙一動が突き刺さって、俺はもう血まみれだ。
だから、きっと。
俺が彼女を殺すのなんかよりずっと前に、俺は彼女に殺されるのだ。
きっと僕だけが悲しい