例えば、考えたことがある。
私達の今生きている世界は誰かが授業中机の上に書いた落書きメモ程度のくだらないもので、なら今私の書くこの文字列もどこかでまた物語に。
ああ実にくだらない。吐きそうなぐらい、陳腐な現実逃避。


「ほう。お前丸井が好きだったんか」
「あー、におー」
「…秘密がバレたわりに軽い反応じゃな」


上から覗き込むように机に書かれた文字列を見た仁王の感想は、何と言うかありきたりだ。だけど、三年間好意を一切表に出さずマネージャーやってきた私が、部室の机に『私は丸井君が好きだ。告白しないけど好きだ。好きだった』なんて書きなぐっていれば当然の反応だろうか?


「んー、まぁ別にいいかなって。消す気ないし、本人さえわかんなきゃ?」
「消さないんか?」
「私って字綺麗だから、まさか私が書いたとは思わないでしょ?」


自分で言うのも難だけど。
そう言って笑えば、仁王は変な顔をした。顔を歪めて…怒ってる?悲しんでる?喜んでる?よくわかんない。
実際、部室に出入りできる信用された女の子のマネージャーだけでも五人はいる。それに私達三年は今日卒業したし、こんな所にいるとは誰も思わないだろう。


「仁王、そういや何で居るの?」
「さぁな」


表情を読ませるような奴じゃないし、ボロも出さないだろう。そういう奴だ。


「言わなかったのは、」
「ん?」
「丸井に彼女がいるからか」


いやに真剣な顔で聞いてきた仁王に、私は笑った。


「そんな、お人好しじゃないよ」
ただ、絶対成功しない告白なんかして自分が傷つきたくなかった。
仁王を置いて部室を出ると、丸井と彼女がいた。笑顔で手を振る丸井に手を振り返して、校門を出る。
私は卒業した。


「あーあ」


でもこれで良かった。






傷がついたのは、いつからだったか。一番最初に傷をつけたのは、誰だったか。
じゃけど、マネージャーであり俺の好きな女だったアイツにも、丸井にも、丸井の彼女にも真実を告げなかったし掻き回した俺が一番の加害者なのは言うまでもなか。
だから、俺が告白する権利も――


「あーあ」


部室の窓からは自分の彼女が隣にいるのに他の女の後ろ姿を物憂げに見つめる友人が見えて、俺はカッターを握った。
アイツの机上の世界を傷つけたって、誰も報われはしないのに。


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