『はあ』と小さく息をはくと、白い煙が見えた。今日は一段と寒いな。凍える手を擦り合わせる。すると、雪が手に落ちた。溶けて消えてしまった。まだ青い空を見上げる。そこからぱらぱらと降る雪が足元に降り積もる。ばたばたと階段を駆け上がる音がして、目を閉じた。


「お前…!」
『なんだ、白石か』
「なんだやないって!なんでこんなとこに」


白石が言うこんなとことは、中学校の屋上のことで。私がいるのはフェンスの外で。あなたがいるのは、フェンスを越した向こう側。


「はよ戻って来ぃ」
『ねえ、白石』
「なんや…」


そんな怖い声しないでほしいな。白石には、いつも笑っててほしいだなんて、私の我儘かな。振り返って白石の顔を見ると、怒っているような。哀しんでいるような。複雑な表情を見せていた。


『人間って、不思議な生き物だよね』
「…?」


ギリギリの綱渡り。人間関係なんてそんなもの。一度落ちてしまえば、それからはあっという間だった。


『ひとりじゃなにもできやしない。他人に合わせ、自分とは違う人間を虐げることで安心感を得る』


なんて不幸な生き物なんだろう。そう思ってからは、世界の見方が変わっていた。まるでブラウン管越しに見ているようだった。どうしてみんな普通にしていられるのだろうか。ここはこんなにも違和感で溢れているのに。


『私は人生を楽しむようにしているよ。ゲームだと思ってる』
「ゲーム…やと?」
『でも、飽きちゃった。私の負けだね』
「あ…っ、」


白石が言葉を洩らしたのと、私の身体が宙に浮いたのは、ほとんど同時のことだった。


『…ゲームオーバー』


落ちる瞬間、私の瞳に映った世界は青かった。一点の曇りもない青空を背景に、私を見下ろす白石は、とても、きれいだった。




なおも世界は愛しい




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テーマ「人外ファンタジー」
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