pm | ナノ



  イナリと一京


晩夏の候、月遅れの盆にけい殿の様子は如何と見舞った帰り。六殿の紹介で、我は一人の僧都と知り合った。
僧都は一京殿と仰る、祈祷調伏に名立たる御仁であるそうだ。我は伏せられる側のものではあるが、此度呼ばれに与ったのは我に懸念あってのことではないと言う。


「いえね、掃除屋殿に守役がついたと聞いたので、一度お会いしてみたいと思いまして」


笑み語る一京殿の傍には九十九の者たる古琵琶が在った。調伏師と謂えど妖しに理解ありと言うのは本当らしい。
またこの琵琶牧々は殊に強き法力を持つそうで、一京殿はこの琵琶の力を借り調伏や札書きを行うそうだ。一京殿はその札を書かれては、けい殿の部屋へこそりと忍ばせていた。

そう、斯様に障りを引き付けるけい殿をこの盂蘭盆まで守護せしめたのはこの御坊であったのだ。

とは言え、一京殿がけい殿と知り逢えたのも我が呼ばれし宴のいくらか前の場であると言う。けい殿自身、神を知り得たのは然程昔のことでは無いと言っていた。
それまでけい殿には、何ら護りが無かったようなのだ。


「これまで彼が無事であったのは…謂わば奇跡に等しいのですよ」


そう仰った一京殿は、幾許かの憂えを相貌へ乗せる。

けい殿は悪し妖しの類を惹きつける。それは今生の業の所以だけではない、恐らくは生まれ持っての性であろうと一京殿は見ていた。
彼には、一京殿の様な祓えの力は勿論のこと、異なるを見出す目ですら持たない。かと言って影響を受けぬ程鈍いかと言えば、これは人の身にしては鋭き方である。
鋭いが故に妖しに関わるのは本能的に避けていたのだろうが、さりとて護る力が無いでは何れ不幸は彼を襲ったろう。或いは、命こそ永らえど、数多不幸をその身に受けてきたやも知れぬ。

一京殿に、延いては神に巡り合わずば、命すら失っていた可能性は高い。そう思うと血の気が引く。
色を失くしたのが見て取れたか、一京殿は今一度笑みを浮かべた。


「まあ貴方がついているのでしたら私もお役御免でしょう」
「御坊、果敢ないことであるが、我は然程にも通力を持たぬ故…」
「あの程度なら先に某かがついていればそうそう寄ってきません、大丈夫ですよ。酷くなれば私も六殿もおりますし。それにね、」


彼には御仏の加護より、化生でも憑いていた方が似合うでしょう?と。

今日も猫を連れていた彼の人を思い出し、申し訳ないながら酷く納得してしまった。





-----

補足説明のような蛇足のような一京さん出したかっただけのような。
鈍い人って霊障起こらないらしいのできっとけけさんは零感だけど敏感なんだなと思いまして。



 

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -