出間さん誕生日0703SS 最後の園児のお迎えが来て、ようやく俺も帰れる。戸締りを確認して職員室に戻った。 職員室には、園長先生しかいないと思っていたが、話し声が聞こえる。来客でもいるのか、とこっそり覗けば、園長先生と見覚えの有りすぎる男がお茶をしていた。 「何してんすか」 呆れ気味に話し掛ければ、2人がこちらに顔を向ける。 「おや、終わりましたか」 おっとりと、園長先生が言う。 見覚えの有りすぎる男――八神くんものんびりとお疲れ様です、と声を掛けてきた。髪がいつものキノコ頭ではなく、オールバックになっている。服も少し明るめで、完全に余所行きスタイルだ。 「さぁ、ここは私に任せてお二人はお帰りなさいな」 含みのある笑顔で、園長先生は言った。 彼女は、俺と八神くんの関係を知っている。 「あ、出間先生。今日は、はしゃぎすぎてはいけませんよ。明日もお仕事ですから」 ふふふ、なんて笑って俺達を追い出す。 本当に、敵わないな。 自然と口許が緩んだ。 「で、八神くんはどうしてここに?」 この幼稚園には、八神くんの教え子がいるらしく、それがきっかけで園長先生とも知り合いだ。けれど、こんなところまでくるのは珍しい。 「驚かせたくて……その、迷惑でしたか?」 背は、193センチもある彼の方が高いのに、小さくなった。猫背を更に丸くして俺の顔色を伺う。 「いや。迷惑じゃないけど珍しいからね。驚いたし、嬉しいよ。いつもより一緒にいれるね」 怒ってないことをアピールするように、ニッと笑って見せる。八神くんはそれに安心したように、ホッと息を吐いた。 「えっと、これ……誕生日、おめでとうございます」 八神くんはそう言って、持っていた鞄の中から大きな包みを取り出した。 誕生日……? 今日の日付を思い出し、俺は八神くんに目を向ける。 さっきの驚かせたいって、これのことだったのか! 不器用で優しい彼を抱き締めたい。けれど、外だということを思い出して、グッと我慢する。 「ねぇ、開けていい?」 ニヤける口許を締めることなく、八神くんに聞く。八神くんも嬉しそうに、頷いた。 包みを丁寧に開ける。中にはエプロンが入っていた。パステルカラーのそれの胸元には、クマのワンポイントが付いている。 「それみたら、出間さんの笑顔が浮かびました」 僅かに口許を緩ませ、八神くんは言う。 「八神くん。早く帰ろう」 外に居たんじゃキスだって出来やしない。 幼稚園からだと俺の家が近いな、なんて考えながら愛車に向かって足を早めた。そんな俺はこの時、園長先生の言葉をもう忘れていた。 2013.07.03 出間さん誕生日記念SS ← |