1 とおりゃんせ とおりゃんせ ここはどこの細道じゃ 天神さまの細道じゃ ちっと通して下しゃんせ ご用のないものとおしゃせぬ この子の七つのお祝いに お札を納めに参ります 行きはよいよい 帰りはこわい こわいながらも とおりゃんせ とおりゃんせ ――童謡より 食堂の片隅で、最近出来た唯一の女友達――逢沢さくら(あいざわさくら)さんと話していると急に電話が鳴った。液晶に表示された名前は、予想通り田沼だった。 一言断って電話に出る。 「上原、いまどこ?」 「食堂」 「ふーん。じゃあ、早く帰ってきて。今、オレ上原家の前だから」 それだけ言い、田沼は電話を切りやがった。お前は俺の彼女か。いや、彼女なんていたことないから知らないけど。 「田沼くんから? また呼び出しかしら」 仲良いわね、と笑い逢沢さんは言った。 仲が良いかは置いといて、"また"と言われるほど俺は田沼に呼び出されているのか。思わず苦笑する。 「じゃあ、また明日」 手を振ると、逢沢さんも返してくれた。 可愛い女の子だ。女の子とこうして、普通に話せる日が来るなんて入学時は思ってもみなかった。2回生になると女の子と話せるぞ、と当時の俺に言ってやりたい。 [戻る] [しおりを挟む] |