愛染 | ナノ




 頭を冷やすと言って、田沼が出て行ってから3日経った。スマホどころか鍵すら持たずに、どこに行ったのか。帰ってくるかもしれないと部屋で待ってはいるが、一向に扉が開くことはない。
 それとなく聞いてみた様子だと、実家にも帰っていないようだった。事故に遭った可能性も考えたが、この辺りで事故は最近起きてないらしい。事件に巻き込まれた場合のことを考えると早々にご両親に相談するべきだろう。
 ケータイを取り出し、電話帳から田沼の実家の電話番号を開こうとした瞬間、電話が鳴った。液晶画面には、森と表示されている。
「上原、今どこだ? 大丈夫か? 3日も大学来てないだろ? もしかして、あいつに何かされたのか?」
 電話に出るなり、矢継ぎ早に質問をされた。たかが3日だろうとも思うが、俺も同じく3日帰ってこない田沼を心配している身だ。
「いや。大丈夫だけど。てか、田沼は大学来てるか?」
「……知らない。見てはいない」
 俺の質問に、森は興味無さそうに答えた。そういえば、理由はわからないが森と田沼は仲が悪いんだったと思い出す。でも、他のやつに聞こうにも、連絡先も知らないし、そもそも親しくもない。
「放っておけ」
 森に田沼がいなくなったことを伝えれば、そんな回答が返ってきた。
「放ってなんて……あいつは、友達なんだ」
 血の気の引いた顔をして、部屋から出て行った田沼を思い出す。あんな顔、初めてみた。基本的にあいつは、いつもへらへらと笑っていて、そういうところに腹立っていたが救われていたのも事実だ。
 本人には言わないが感謝しているし、大事な友達だと俺は思っている。田沼自身が、どう思っているかは知らないけれど、放ってなんていられない。
「俺だって、友達だろう」
 ムスッとしたような口調だった。顔は見えないのに、不機嫌な森が目に浮かぶ。友達だろうなどと、田沼以外から言われるとは思ってなかった。驚いて反応が遅くなったが、頷くけば、森は溜息を吐いた。
「……見かけたら教える」
「ありがとう」
 ぶすっとしたままの森に、礼を言えば、電話の向こうで小さく息を吐くのが聞えた。
「……それと、もしかしたら、思い出の場所に、いるかも」
 森はそれだけ言うと、それじゃあと電話を切った。何だかんだアドバイスをくれる森に感謝をして、俺は田沼の部屋を出る。
 3日振りに出た外は、当然だが変わってはいなかった。夕方だが、久しぶりの日差しは引きこもっていた目には眩しい。


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