1 そろそろ、自宅に、帰った方がいいかもしれない。あの出来事があってから数か月帰っていなかった。それに、このままずっと、田沼の部屋に居候するわけにはいかないだろう。 いつまででもいていいよ、と田沼は言ってくれたが、その優しさに、いつまでも甘えているのは申し訳ない。 田沼が風呂から出たらその話をしようと待っていると、脱衣所の方から何かが割れるような音がした。何事かと脱衣所に向かう。 「田沼?」 脱衣所には、呆然と半裸で立ち尽くす田沼とその足元には割れた鏡が散らばっていた。 もう一度名前を呼ぶと田沼がこちらに顔を向ける。 「急に、割れて……」 何が起こったのかわからないと言った様子で田沼は足元へと目をやった。 「怪我は? てか動くなよ」 足を動かそうをする田沼に、そう言いつければ、困ったような顔で俺を見た。廊下に置いてあったスリッパを田沼に渡し、俺はほうきと塵取で割れた鏡を集める。 「ありがと、良太」 集め終わるとそれまで呆けていた田沼が口を開いた。素直な田沼の様子に気持ちが悪いと思ってしまうのは、こいつの日頃の行いのせいだろう。 [戻る] [しおりを挟む] |