愛染 | ナノ




 模擬店の焼きそばを軽食スペースで食べながら、俺は周りの視線から逃れるように俯いていた。視線を集めているのはもちろん目の前の田沼だ。お化けの格好のまま焼きそばを食べる姿は、なかなかシュールだ。勘弁してくれ。
 大学祭なのだし、女装した男や白塗りの男などが歩いているから大丈夫かと思っていた。だがしかし、演劇サークルを兼任していた女子が、割と本格的にメイクをしてくれたおかげで目立つのだ。美形なのが、余計に怖さを強調している気がする。完全に悪目立ちだ。
 早く食べて持ち場に戻ろう。
「これ、宣伝になってるんじゃない?」
 視線を一身に浴びる田沼は、ニヤニヤと調子に乗り出す。ちょっと黙ってろ。
 ため息を吐いて、俺は痒い腕をいた。
「あれ? 虫刺され? これ、ダニにでも刺されたの?」
 いていた腕を掴まれ、覗き込まれた。確かに赤くなってポチポチが出来ている。いている腕は、さっき仁美ちゃんに掴まれた腕だ。
 ドキリと心臓が跳ねる。いや、でも……偶然かもしれない。先日、衣替えをしたばかりだからダニがいたのかもしれない。
「痒み止めクリーム持っているよ」
 田沼はそう言って、クリームを取り出した。なんでそんなもん常備してんの? とは思うが、有難くそれを受け取る。
 赤くなったところにそれを塗って、田沼に返した。
「最近、蕁麻疹出るんだよねー。だから、持ってんの」
 俺の疑問に答えるように、田沼は独り言のように呟く。今、居候させてもらっているが、知らなかった。
「酷いなら病院行けよ」
 渡されたクリームはどう見ても市販のものだったから病院には行っていないらしい。それでもクリームを持ち歩いてるくらい酷いならさっさと病院にいくべきだ。
 俺の言葉に、解っているのかいないのか、田沼は生返事を返す。
 いや、これ全然わかってないな。今度、無理矢理にでも病院に連れて行くべきかもしれない。

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