愛染 | ナノ



 その数日後、食堂でたまたま森にあった。
 いつもの場所へと目を向けると、数人の女の子が楽しそうに会話に花を咲かせている。窓から陽が差し、そこを明るくする。いつもの、あの薄暗かった雰囲気は、もうない。逢沢さんが、いつも座っていた席には、知らない女の子が座っていた。
 仕方なく、空いている席へと森と座る。
「あれから何もないか」
 座るなり、森が口を開く。大丈夫だと伝えると、森は頷いた。
「人形はもう引き取ってもらったから大丈夫だと思う」
 少し口元を緩めて、森は言う。
「ありがとう」
 お礼を言ってホッと息を吐いた。
 夏休み前に比べて、森の表情が少し柔らかくなった気がする。ほんと少しだけど。
 そこからは、夏休み中なにをしてたかとか世間話になった。
 森はほとんど家で過ごしていたらしく、意外と出不精だということがわかった。だからなんだという事はないけど。
「森」
 話している途中、森の後ろから奇抜な髪の色をした男が近づいてきた。
 どピンクだ。服は黒と白でモノクロなのに、髪の毛だけがピンクですごく目立つ。背中に、ギターケースのようなものを背負っているから、たぶんバンドか何かをしてるんだろう。
 近づいてきた男は俺に気付いて、会釈をしつつバツの悪そうな顔をした。森だけだと思っていたのに俺がいて、戸惑っているのだろう。俺も会釈をして立ち上がった。
「あとでまた来るわ」
 だから座っててとでも言うように、ピンクの男は俺の肩を叩く。戸惑いながらもそれに従うと森が口を開いた。
「大事な話なのか」
「大事つーか、あっち方面。たぶんヤバい」
 これは、やっぱり俺は今すぐ席を外したほうがいいのではないだろうか。立ち上がろうとした瞬間、キーンと頭に響くような耳鳴りがした。食堂の出入り口へと視線を向けるとこれまた奇抜な頭をした男がいた。真っ赤な髪をした男のまわりに黒い靄のようなものが視える。
「ああ、意味が分かった」
 ポツリと森が呟いた。そんな森を見たピンクの男は、小さく頷く。
 たぶん、あの黒い靄が関係しているんだろう。
 真っ赤な髪の男はピンクの男に気付き、片手を上げて近づいてきた。
 男の周りの黒い靄はよく見ると小さな羽虫のように見える。微かに羽音が聞える。
 森が、真っ赤な髪の男を無遠慮に上から下まで眺める。男は困ったようにピンクの男へ視線をやった。ピンクの男は苦笑して、森を見る。
 ピンクの男をチラリと見て、森は首を横に振った。
 無理だ、とかもうダメだという事なんだろうか。チラリとピンクの男へ盗み見れば、難しい顔をしていた。真っ赤な髪の男は俺達に視線を向け、困ったように笑っている。
 微妙な雰囲気のまま、その場は解散となった。

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