愛染 | ナノ



 10月だというのに、まだまだ暑い。
 人形を森に渡してから、男が現れることはなくなった。
 残りの夏休みをバイトに明け暮れつつ、平和に過ごした俺は、来月にある大学祭に向けて準備に取り掛かっていた。入学当時に田沼と一緒に入ったテニスサークルという名のただの飲みサークルに所属している。まぁ、俺はバイトがあるからほとんど参加してないんだけど。そんなテニスサークルは、毎年模擬店をしているらしくそれをこの時期になると手伝っている。だが、今回はお化け屋敷もやろうなどと言ったバカがいたために準備がいつも以上に忙しい。俺と田沼はお化け屋敷の準備をしている。
 当り前だ。言いだしっぺとその友達だからな。
 そして今は、田沼と買い出しの帰りだ。
「あのさ、上原」
 田沼が改まって、話しかけてきた。
「今更なんだけどさ」
 若干、モジモジとしながら田沼は言い淀む。
 モジモジすんな。気持ち悪い。何だよ? と続きを促せば、ようやく口を開いた。
「名前で呼んでいい?」
「は?」
 思わず田沼を見るが、田沼は俺のほうを見ない。
 えっ? え? 照れてんの?
「あ、と……いいけど」
 俺まで照れたじゃねぇか。気持ち悪いな。なんだこれ。なんだよこれ。
「良太」
 ボソリと名前を呼ばれ、胸の辺りがざわざわする。なんだこれ。落ち着かない。
 なんだよ、と返事をすれば、呼んだだけと田沼は笑う。
 彼女か。男同士でなにやってんだ。これ。彼女か! 恥ずかしい。
「……渉」
 仕返しに名前を呼べば、田沼はバッと俺に顔を向けてへにゃりと笑う。
 え? ちょ、なんだ今の。なんで今ちょっと俺きゅんとしたの。何だこれ。彼女いないから飢えてんのか。
 荷物を置いて、頭を抱える俺に気付かないのか、田沼は足取り軽く歩いていく。楽しそうでいいなぁ。イケメンなんてタンスで小指でもぶつけろ。
 ようやく荷物を持ち直した俺は、田沼の横へと並ぶ。隣に並んだ俺をチラリと一瞥し、田沼は思い出したように口を開いた。
「そういえばさ。良太知ってる? 最近女の子のあいだでね。生き物を使った恋のおまじないが流行ってるんだって」
 良太と呼ばれ、そわそわする。そして話題が話題だ。なんだこれ。女子か。てか俺に何度、なんだこれって言わせる気だ。
「1つの壺に……箱でもいいらしいけどさ。それに、生き物を入れて、1か月土の中に放置して土の中に埋めるんだって。それでね、それを掘り返すと1匹生き残った生き物を好きな相手に食べさせるんだってさ」
 物騒なおまじないだなそれ。
「それ、本当に恋のおまじないかよ。呪われそう」
 それをやっている女の子を想像して、恐怖を覚える。
「えー。でもさ、バレンタインのチョコに血を混ぜると恋が叶うとか流行ったじゃん。それと同じなんじゃない?」
 確かに、そんなことを話していた女の子達がいた気がする。まぁ、俺関係ないんだけどね。貰ったことないし。
 そんな恐ろしい恋のおまじない話をしているうちに、大学に着いた。

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