愛染 | ナノ




 しばらく、そうして周りの音に耳を傾けていると森が口を開いた。
「最近、変わったことなかったか?」
 森がジッと俺を見つめ……いや、正確には俺の後ろを見つめる。
 チラリと振り返るが、俺には何も変わったものは見えない。
「いや、特には」
 変わったことはない、と思う。ここ最近あったことを思い出しながら、首を横に振った。たぶん、ないよな。
「わかった。じゃあ、質問を変える。お前のこと見てる男を知っているか。視線を感じるだけでもいい」
 森の言葉に、俺はゾッとする。森は俺の後ろを見たまま、目を放さない。
 もしかして、森には俺が早朝に見たものが視えているのだろうか。もう一度後ろを見るが、やっぱり何も視えない。
「森からメールがくる直前に、たぶん視た」
 やっぱり、と森は呟く。やっぱり、視えているのだろうか。
「それが出た原因は、心当たりないのか」
 ようやく、森が俺を見る。
「心当たりっていうか、人形貰ったんだけどそれでちょっと不思議なことがあった。後ろ向けたはずなのに、いつの間にか俺の方見てた」
 早朝のことを思い出し、俺は言う。怖かったというのは何だかかっこ悪くて、不思議という言葉で誤魔化した。
 森は腕を組み、深く息を吐く。
「それ、俺が貰ってもいいか。知り合いに頼んでお祓いしてもらう」
 仁美ちゃんには悪いが、俺は頷いた。怖い思いはしたくない。
 早速明日の昼には引き取ってもらうことにして、その日は別れた。

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